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東京五輪の酷暑マラソンは任せろ!
アジア金の井上大仁、驚くべき工夫。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAFLO
posted2018/08/30 10:30
バーレーンのエルアバシ(左)と最後までデッドヒートを演じた金メダリストの井上大仁。
保冷剤を持ちながら走る!?
日本陸上競技連盟では事前からメンバー全体の共有知識として、「氷を手に持って走ることで体温を下げる効果がある」とレクチャーしていたが、溶けると小さくなるうえに滑りやすい氷に比べて「持ちやすい」ということで保冷剤を持つことにした。
これは井上自身の発案。
実際には、予想以上に冷たかったそうで「前半は冷やしすぎてふくらはぎがつりそうになった」(井上)と苦笑いしていた。
また、30キロ以降は帽子も加えた。
井上はこれまで帽子を好んでいなかったが、今回のアジア大会に向けて行なった7月の米国ボルダーでの高地合宿中に試してみたところ、思いの外、涼しく感じたといい、用意することにした。
結果的にはジャカルタの空が大気汚染の影響でかすんでいたこともあり、直射日光はさほど強くなく、帽子はすぐに脱いだが、備えあれば憂いなしということで様々なアイデアを盛り込んだ姿勢が、金メダルの下支えになったのは間違いないだろう。
井上「暑さには自信がある」
長崎出身の井上は以前から暑さに強いという自負はあった。
昨夏の世界陸上では26位と悔しい思いをしたが、今年3月にアジア大会の代表に選出されたときの会見では、「(山梨学院大時代の)インカレでも成績が良かったし、暑さには自信がある」と話していた。
ただ、3月の時点では「科学的なことはまだ(分からない)。まずは気持ちで負けないようにすることと、夏はエアコンに頼らずに、まずは扇風機を使うことから始めたい」と語り、具体的なノウハウがあるというほどではなかった。
今回のレースで見せた工夫は、アジア大会が決まってからの準備段階で知恵を出し合って決めたことだった。
MHPSの黒木純監督は「ユニホームに穴を開ける作業は本人がやった。給水バッグを確実に取る練習もしてきた」と説明する。
とはいえ、優勝するには当然ながらコンディショニングの成功が不可欠。黒木監督は、「井上は良い仕上がりを見せていた。ウォームアップの動きが良すぎるので、行きすぎないように注意をした」というほど好調だった。