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大橋悠依と恩師・平井伯昌の不在。
メドレー2冠ならずも輝いた泳ぎ。
text by
田坂友暁Tomoaki Tasaka
photograph byAFLO
posted2018/08/29 08:00
今大会では競泳日本女子の主将も務めた大橋。400m個人メドレーは2位に2秒85の大差をつけ金メダルを獲得した。
自分で光を作り出せる選手である。
しかし、大橋は自分で光を作り出せることを、アジア大会で証明した。
昨年の世界水泳選手権では初日に200m個人メドレー、最終日に400m個人メドレーが行われ、間に6日間も空くという極端な日程に惑わされ、最終日の400mでは自分の力を出し切ることができなかった。
今年はパンパシフィック水泳選手権からアジア競技大会を合わせて10日間という長丁場。前半戦では、200m、400m個人メドレーで2冠を果たし、4×200mリレーでは日本記録樹立に貢献した。
そして後半戦のアジア競技大会では、400m個人メドレーで優勝を飾り、4×200mリレーでは銀メダルを獲得。さらに200m自由形で4位入賞を果たした。これだけのレースをこなしながらも、最後の最後、ライバルに敗れたとはいえ、200m個人メドレーでは自己ベストから1秒も遅れないタイムをマークして銀メダルを獲得したのだ。
今できることを、今やることで。
パンパシフィック水泳選手権は国内開催で、歓声が多い分、プレッシャーも並外れて大きかったはずだ。さらに間に移動を挟み、はじめて訪れるインドネシアという慣れない環境でのレース。昨年とは比べものにならないくらい、身体的にも、精神的にも負担は大きかったことだろう。
そのうえ、心の支えでもある恩師の不在。大橋にとって、これ以上ないほどの悪条件が揃っていたなかで、大橋はこれだけ立派な「結果」を残したのである。
最後は涙を流しながら、「納得のいくタイムではありませんし、いろいろ悔しいです」と大橋は言葉を絞り出した。ただ、これじゃは昨年の涙とは違う、成長の証の涙だ。現状を冷静に把握し、その上で今の実力を出しきるにはどうすれば良いか、今の自分が残せる最高の結果を目指すためには何をすべきか。大橋は今大会それを知り、実行できたと言える。
2017年から一気に世界のメダリストへと駆け上がった大橋は、毎年確実に成長を遂げている。それをインドネシアの地で証明してくれた。セルフマネジメントを身につけた大橋は、来年、再来年の夏にはまた、きっと涙を流すだろう。
しかしそれは悔し涙などではなく、歓喜に満ちた、うれし涙になるに違いない。