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大橋悠依と恩師・平井伯昌の不在。
メドレー2冠ならずも輝いた泳ぎ。 

text by

田坂友暁

田坂友暁Tomoaki Tasaka

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photograph byAFLO

posted2018/08/29 08:00

大橋悠依と恩師・平井伯昌の不在。メドレー2冠ならずも輝いた泳ぎ。<Number Web> photograph by AFLO

今大会では競泳日本女子の主将も務めた大橋。400m個人メドレーは2位に2秒85の大差をつけ金メダルを獲得した。

平井コーチが急病で不在の中で。

 インドネシアに入ってからは寝不足が続き、さらにパンパシフィック水泳選手権からの連戦の疲労もあり、どんどん自分に覆うようにのしかかる不安。何とかそれを払拭しようと、気持ちをポジティブにするために強い決意を口にしていたが、ふと1人の時間ができたときに、不安が襲いかかってくる。

 そんなとき、今までであれば恩師である平井伯昌コーチという光が近くにいて、大橋が持つ影を照らし続けてくれていた。

 だが、今大会は急性虫垂炎で帯同を辞退。メール等で連絡を取り合えるといっても、顔を見て、ヒザをつき合わせて話ができる状況とは全く異なる。頼れる恩師がそばにいないということは、大橋が不安という暗い影に覆われるには、十分すぎる要素だった。

真摯だからこそのネガティブ思考。

 そもそも水泳という競技は、矢印を自分に向け続ける、内向きのスポーツの1つだ。レースという対決形式にはなっているが、本来は記録という自分自身が生み出した“敵”と対峙しなければならない。

 さらに、水という特殊な環境を捉える感覚は、自分自身しか分からない。誰も知り得ない、分かり得ない感覚に自分ひとりで向き合い、研ぎ澄ませていかなければならない。

 問題を生み出すのも基本的には自分であり、それを解決する方法を持っているのも、基本的には自分自身でしかないのだ。

 しかし、人はひとりで考え込むと、なぜかネガティブな思考にとらわれやすくなるものだ。特に真面目に、真摯にその物事に打ち込めば打ち込むほど、ネガティブな思考が頭の中を支配していく。大橋は、まさにそのタイプと言っても良いだろう。

 それを平井コーチは、うまくコントロールして大橋が持つ影を照らし続けていた。だが、その光をはじめて失ってしまった大橋は、襲いかかる影を最後まで完全に振り払うことはできなかった。

【次ページ】 自分で光を作り出せる選手である。

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