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北朝鮮もアイスランドみたいに。
ヴェルディ李栄直がW杯で得た熱。
posted2018/07/27 08:00
text by
海江田哲朗Tetsuro Kaieda
photograph by
J.LEAGUE
「これほど夢中になってワールドカップを見たのは初めて。特にアイスランドの3試合は心を揺さぶられるものがありました」
ワールドカップロシア大会を振り返って、そう語る東京ヴェルディの李栄直(リ・ヨンジ)。1分け2敗でグループステージ敗退となったアイスランドの奮闘に釘付けとなったのには理由がある。在日朝鮮人4世の北朝鮮代表プレーヤー。北朝鮮とアイスランドは、ともにサッカーの世界地図で隅っこに置かれる小国だ。
「技術的なレベルは決して高くはない。世界的に有名な選手もいない。たくさんのチャンスはつくれないけれど、自分たちはこれで勝つんだとはっきりしていた。球際の争いは強烈でしたね。ボールを奪ったら一気に攻めへと転じ、ゴールに向かって突撃する。チームの意思統一が明確なら、ここまでやれるんだと興奮しました」
まだ激闘の余熱がくすぶっているのか、李は上ずった声で話す。
アイスランドに見た“地味”の凄み。
長身痩躯で、人柄は明朗快活。2013年、大阪商業大学を経て徳島ヴォルティスに加入し、プロのキャリアを歩み始めた。兄の同級生だったベガルタ仙台の梁勇基(リャン・ヨンギ)との親交は深く、いまも色褪せない憧れのヒーローだ。
「プロで年数を重ねるごとにわかってきたことがあります。地味なことをひたすら続けるのが一番しんどい。プレスにいき、ボールを回されても二度追い、三度追いをする。球際の勝負で身体をぶつけ、かわされても再びアタックする。アイスランドの選手たちはそれを当たり前のようにやっていました」
今季、李はロティーナ監督より直々に口説かれ、カマタマーレ讃岐から東京Vに移籍。開幕以降、しばらくは試合に絡めなかったが、J2第14節のレノファ山口FC戦で初先発のチャンスを得ると、いきなりゴールを叩き込んだ。
長く、センターバックと中盤の底を定位置とし、本来は守備の補強のために獲得された選手である。ところが、ここで李は自身も予想だにしていなかった新境地を開くことになった。