燕番記者の取材メモBACK NUMBER
初手術の“悲劇”を経たライアン小川。
月間MVPを獲るまでの葛藤と練習。
text by
浜本卓也(日刊スポーツ)Takuya Hamamoto
photograph byKyodo News
posted2018/07/14 08:00
6月のセ・リーグ月間MVPは小川と青木宣親。交流戦首位で好調だったヤクルトを表すような人選だった。
人生初の手術によるフラストレーション。
ナゴヤドームでの中日相手のデーゲーム。直球、カットボールを軸に低めに球を集めて7回1失点と好投したが、打線の援護に恵まれず3敗目を喫した。白星こそ逃したが、投げては痛打されてを繰り返した1年前とは別人のような投球を披露。'13年に最多勝(16勝)と最高勝率(8割)のタイトルを獲得した時のような、威風堂々としたすごみを取り戻していた。
七夕を前に、小川はもうひとつの“悲劇”を乗り越えていた。昨年10月、右肘の疲労骨折の手術を受けた。人生初の手術。食事、睡眠と、ストイックに投げることを生活の軸に据えてきた小川が、右腕を振るうことを禁じられた。ボールを投げることができないフラストレーションは、想像以上だった。心のモヤモヤは、リハビリでかいた汗とともに流していった。「しっかり走り込んで体をつくるだけ」と、今まで以上に自分を追い込んだ。
それでも、「開幕ローテーション入り」という青写真は幻となり、4月も二軍生活が続いた。エースの責任感から来る、歯がゆさと葛藤に襲われた。それでも、心は折れなかった。「はい上がっていかないといけない」。その一念で、自らの完全復活を信じて走り込んだ。
「無意識に戸田に行きそうに(笑)」
小川が神宮に帰ってきたのは、新緑がまぶしくなってきた5月上旬だった。
「久々に神宮に来て、戻って来られたことに喜びを感じました。ありがたい気持ちが湧いてきました。オフのイベント以来だったので、途中で無意識に(二軍施設のある)戸田に行きそうになりました(笑)」
珍しく冗談をとばすなど、一軍合流の喜びを隠さなかった。
「まずは自分のいいボールを投げてリズムをつくってチームに貢献したい」
練習ではリリースポイントを打者よりにして球持ちを良くするために、1メートルほど先の地面にたたきつけるキャッチボールなど、新たなトレーニング法も取り入れた。投げられる幸せをかみしめつつ、レベルアップに余念はなかった。