燕番記者の取材メモBACK NUMBER
隙を逃さないヤクルトの「走塁変革」。
旗手は広島から来た河田雄祐コーチ。
posted2018/05/20 07:00
text by
浜本卓也(日刊スポーツ)Takuya Hamamoto
photograph by
Kyodo News
取材で野球の試合を見ている最中は、1つのプレーに声を出すことはそうそうない。だが、この時ばかりは「あ」と思わず漏らしてしまった。
5月9日、石川県立野球場での中日vs.ヤクルト戦の7回だった。1-2と1点を追うヤクルトの攻撃。2死一、二塁で中日・祖父江大輔投手が川端慎吾に投じた3球目を捕手・松井雅人が後逸し、本塁後方のファウルゾーンへと転がった。走者はそれぞれ1つずつ進み、1死二、三塁で試合再開――。
そんな「予測」は、二塁走者の西浦直亨と三塁コーチの河田雄祐外野守備走塁コーチによって、一気に壊された。
西浦が三塁手前でも減速しない。それどころかグングン加速度を上げ、迷うことなくベースを蹴って本塁へと駆けた。河田コーチも腕を目いっぱい回し、本塁突入へのゴーサインを出した。ヤクルトが勝負をかけ、同点となる1点を奪いにいった。西浦は本塁のベースカバーに入った投手祖父江のタッチよりもわずかに早く、足から鋭角に滑り込んだ。この回は無安打で、バットが快音を響かすことなく貴重な1点をつかみとった。
この球場のファウルゾーンは極端に広かった!
ギャンブル的な走塁に思えるかもしれない。だが、綿密な準備に基づいた好走塁だった。
石川県立野球場は、両翼が91.5mと狭いものの、ファウルゾーンが他球場より極端に広い特徴があった。
ヤクルトは試合前練習で内外野のファウルゾーンに足を運んで状態も確認し、チーム単位で地方球場ならではの特徴を把握していた。
河田コーチが「いいスライディングをしてくれた。ファウルゾーンが広かったし(地面が)緩くなっていたので勝負をかけた」と言えば、西浦も「ファウルゾーンが広かったので、逸らしたら2つ(先の塁を狙うこと)ということは頭に入れていました。河田さんも回していたので思い切っていきました」。
試合前から、ファウルゾーンへの対処法についての指示が周知徹底されていたことをうかがわせた。