ドイツサッカーの裏の裏……って表だ!BACK NUMBER
隠居からバイエルン復帰で偉業達成。
ハインケスはコミュ力重視の名将だ。
text by
遠藤孝輔Kosuke Endo
photograph byGetty Images
posted2018/05/03 11:30
バイエルンをドイツ最強の座に再び君臨させたハインケス監督。その手腕は非常に尊い。
“ロベリー”の怒りも包容して。
だから交代を告げられると、不貞腐れた態度でベンチに戻って来ることが珍しくない。ハインケスはそんな彼をどう扱ったか。答えは「何、ムスッとしているんだよ」と言わんばかりに満面の笑みを浮かべて、俯き加減だったリベリーをギュッと抱きしめたのだ。
これにはリベリーも表情を崩すしかなかった。アンチェロッティ時代は怒りのあまり、ユニホームをベンチに投げ捨てる問題行動を起こしていた猛獣が、まるで牙を抜かれたかのように大人しくなるのだから不思議なものだ。
アリエン・ロッベンが起用法に関する不満をメディアに漏らしたときも、ハインケスは「決めるのは私だ。選手は受け入れるしかない。ただ、スタメンから外れる選手がそう思うのは普通のこと」と理解を示したうえで、途中出場後のパフォーマンスを絶賛。これを耳にしたロッベンはすぐに自身の発言を悔やみ、以降は波風を立てるようなことはしていない。
指導者として何が根本的に大切か?
ナーゲルスマンのようなテクノロジーを駆使した先鋭的なトレーニングを課しているわけでも、元バイエルン監督のジョゼップ・グアルディオラのような革新的な戦術を編み出したわけでもない。それでも極上のチームを作り上げたハインケスは、今シーズン限りで隠居生活に戻ることになる。
72歳という年齢を考えれば、ピッチでのその姿は今度こそ見納めになるだろう。そんな彼が『Goalドイツ版』のインタビューで語った若手指導者たちへのアドバイスが興味深いので、最後に紹介したい。
「自らを正しく表現し、チーム(選手)への言葉の掛け方、練習場での振る舞い方を学ぶことが非常に重要だ」
去り行く老将は、なにかと小難しく考えがちな現代の指導者たちに「何が根本的に大切か」を教えてくれたのではないだろうか。