「分かっているな、次はないぞ」

　一方、大森自身は、チームの勝利にも少々うかない表情でいた。

「勝てたのは嬉しいですけど、僕自身は結果を残していないんで、なんとも微妙な感じです。今日も決定機があって……まぁ開幕戦もそうやし、ここ数試合チャンスを外しているんで、早く1点決めたいですね」

　大森は、ドリブルを含めた独特の攻撃センスと豊富な運動量を長谷川監督に評価され、レギュラーに抜擢された。それ以来、3冠達成に大きく貢献するなど、長谷川サッカーの体現者になった。

　今回、恩師に声をかけられて神戸から完全移籍し、戦術を浸透させ、サイドを活性化させる一役を担った。お互いの信頼関係は根太いが最近、「分かっているな、次はないぞ」と長谷川監督からプレッシャーを掛けられ、結果を出すように釘を刺された。

　その時、大森は怖くて長谷川監督の目を見られなかったという。

「今は、もう危機感しかないです。自分もやらないと試合に出られなくなる。ただ、最近ゴール前に入っていけている回数が増えているんですよ。それはセカンドボールの読みが冴えているからやと思っているんで、個人的な出来は悪くないんですけど……」

サイドハーフだけで20点とりたい。

　FC東京では誰よりも長谷川監督のサッカーを知るが、同時に長谷川監督の厳しさも知る。しかも、この日出場した岡崎慎、さらに久保など活きのいい若手選手が多いので、大森もウカウカしていられないのだ。

「焦ってもしゃーないですけど、早く結果が欲しいですね。個人的には二桁取りたいですし、アシストもほしい。実はガンバが3冠達成した時、サイドハーフだけで20点ぐらい取っているんですよ。そのくらいサイドハーフが活躍すればより強く、より嫌なチームになると思うんです。そうしてガンバが3冠獲った時のように、負ける気せぇへんみたいに東京がなっていけたら最高です」

　湘南戦の結果が示すようにチームは長谷川監督の下、確実に進歩している。その中で大森は、サイドから違いを生み出す仕事を継続的に出来ている。1点を取れば気持ちが楽になり、余裕を持ってプレーすることができれば大森の良さがさらに出てくるだろう。

　桜の開花に合わせて、FC東京の春もやってきそうだ。