今日も世界は走っているBACK NUMBER
「自分流」を貫いた設楽悠太。
言葉、積極性、大迫と村山の刺激。
posted2018/02/27 17:30
text by
金哲彦Tetsuhiko Kin
photograph by
Atsushi Hashimoto
設楽悠太(ホンダ)がフィニッシュに向かう行幸通りに差し掛かったとき、日本記録更新のカウントダウンが響いた。私は我慢できずに思わず立ち上がった。
解説席のモニターを見つめ、鳥肌がたった。
2時間6分11秒。
世界のトップと比べれば、まだ物足りない記録かもしれない。リオ五輪金メダリストのエリウド・キプチョゲ(ケニア)のベストタイムは2時間3分5秒。まだ3分、約1キロもの差がある。しかし、16年前から止まっていた時計の秒針が再び動きだしたのだ。
今回の東京マラソンで日本記録が更新された布石をいくつか振り返ってみる。
東京五輪の存在、MGC方式が効果的。
なんといっても、2020東京オリンピックの存在が大きい。
近年多くの長距離ランナーは、箱根駅伝でモチベーションが燃え尽きてしまうと言われてきた。だが、地元開催のオリンピックは一生に二度とないチャンスである。選手の視線がオリンピックの花形マラソンに向けられることは自然の流れだ。
また、オリンピックへの新しい選考方法であるMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)の効果もある。
これまでの選考では、選手たちはどうしてもオリンピック直前のレースに照準を合わせる傾向があった。国内選考レースが3つに分散していたため、男子のびわ湖や女子の名古屋など、最後の3つ目のレースから選ばれるケースが多かった。
ライバルのレースを見た後の、いわゆる“後出しじゃんけん”的な雰囲気は否めなかったのだ。そして、選考レースの1回のみで結果を出しても、五輪本番では結果を出せないジレンマは何度もあった。
MGCの方式は、まず複数レースで出場権を得て、最終的に一発選考で決める二段階である。長期的な視点でマラソンに取り組まざるをえない体制が自ずと醸成された。