ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
年末ボクシングは何故こうなった?
不在の井岡、絶対の井上、他は乱世。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byAFLO
posted2017/12/29 08:00
9月の世界戦も、井上尚弥は圧倒的だった。パウンドフォーパウンド上位の拳はだてじゃない。
「雑草vs.エリート」はいつの時代も愛される。
さらに井岡が抜けて空いた椅子に、WBOフライ級王者の木村が滑り込んだ。木村は7月、五輪2大会連続金メダリストで中国のスター選手、ゾウ・シミンを上海で下す番狂わせを演じ世界タイトルを獲得した新チャンピオンである。
中学、高校時代のワルがボクシングで己を磨き、現在も酒屋でバイトをしながら栄光を手にする姿は、懐かしき昭和のボクサーのイメージそのもの。挑戦者がアテネ五輪に出場した元WBC世界王者の五十嵐だから、キャッチフレーズは迷うことなく「雑草vs.エリート」。古臭いというなかれ。ステレオタイプな対比はいつの時代も愛される。木村vs.五十嵐は、テレビの前のライトなファンにも訴えるものがあるだろう。
今回が初防衛戦となる京口は、7月のタイトル奪取の試合でいきなりテレビ東京のメインに抜擢されたが、今回は先述したような事情で舞台をTBSに移すことになった。
拳四朗は、テレビ生中継に惹かれて過酷な日程にGO。
もう1つの中継局、30日のイベントを中継するフジテレビもプランの修正を余儀なくされた。当初は井上の防衛戦とともに、大橋ジムのホープ、松本亮の世界初挑戦を並べる予定だった。
しかし、イケメンにして破天荒というスター性を備えた松本は、練習中のけがで12月の試合を断念(最終的に2月28日に開催決定)。そこで拳四朗にお鉢が回ってきたのである。
5月に世界タイトルを獲得した拳四朗は10月に初防衛に成功。いずれの試合もフジテレビのイベントだったが、メインの村田諒太、具志堅用高会長の愛弟子である比嘉大吾の陰に隠れ、スポットライトの輝きはいまひとつ弱かった。
今回、拳四朗が2カ月あまりというスパンで試合出場に踏み切ったのは「テレビの生中継があるから!」というのが最大の理由。ましてや今をときめく井上と“ダブル”なのだから拳四朗のモチベーションはいやがうえにも高まっている。
テレビ局の都合があまりに幅を利かせ、選手の利益を損なうとしたらあってはならないことだ。しかし、あの世界6階級制覇王者、マニー・パッキャオ(フィリピン)のように代役でチャンスをつかみ、スターへの階段を駆け上がった選手はたくさんいる。
圧倒的な強さを誇る井上はさておき、他の5選手はどのようなパフォーマンスを見せるかで、今後の立ち位置が変わってくるだろう。熱く中身の濃いファイトがファンに届くことを期待したい。