球体とリズムBACK NUMBER
ショートパス信仰は日本以外にも。
ハリルに求めたい「信じること」。
posted2017/12/20 11:00
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph by
Yuki Suenaga
「政治の話はここではしない。フットボールは友情や喜びを伝えるものだ。少しおかしくなっているような世界で、最も素晴らしいもののひとつに携われていることを誇りに思う」
北朝鮮戦後、アメリカの通信社記者がフランス語で聞いた「国家として政治的緊張関係にある相手との対戦でしたが?」という質問に、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督はそう答えた。
素敵な言葉だ。そして地政学の意味を肌で知る65歳の口から発せられると、重みが違う。何度も紹介されていることかもしれないが、彼は現役時代にベレジュ・モスタールやナント、パリ・サンジェルマンで名声を築き、引退後に地元へ戻ってビジネスも軌道に乗っていたころ、戦火で全てを失った。
そして「フットボールしか知らないから」と指導者の道を歩むことを決意し、イタリアなどのクラブを見て回るところから始めたという。車中泊を重ねて。
選手を「信じること」が欠けているかもしれない。
そこからこれほどのキャリアを築いた人だ。もちろん尊敬に値する。でも率直に言って、このE-1サッカー選手権の3試合で、胸に響いた言葉はそれくらいだった。
一番残念だったのは、韓国戦の大敗後、ある記者が「日本国民はこの結果に絶望しています。W杯、大丈夫でしょうか?」と訊いた後だ。「私とは違う意見だ。(北朝鮮と中国から収めた)2勝は素晴らしい。今日は韓国が完全に支配した。しっかり分析する。失望はわかる。私も残念だ」といった言葉を発した。柄じゃないかもしれないけど、「大丈夫だ。信じてほしい」くらい言ってほしかった。
あるいは逆に、選手を「信じること」が今の日本代表監督に欠けているのかもしれない。