炎の一筆入魂BACK NUMBER
機動力の広島で、鈍足の4番が光る。
松山竜平「新井さんゆっくりして」
posted2017/12/20 07:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Kyodo News
広島野球の伝統、といえば、機動力野球だろう。
今季新たに4番を務めた鈴木誠也は“走れる4番”として、自己最多タイの16盗塁を記録した。1番から4番まで走れる選手が並ぶ打線は相手にとっては脅威であり、リーグ最多112盗塁を誇る機動力野球がリーグ最多得点の打線を活性化させた。
球団史を紐解いても、走れる4番は珍しくない。黄金時代の主砲・山本浩二氏は通算231盗塁を記録し、ビッグレッドマシンと呼ばれた1990年代の広島4番・江藤智氏(巨人打撃コーチ)も打点王を獲得した1995年は14盗塁を記録している。
だが今季終盤、鈴木離脱によって4番を任されたのは、鈴木とタイプが異なる松山竜平だった。
「打てないデブは、ただのデブだぞ」(丸)
176センチ98キロの体格。昨年までプロ9年で4盗塁のみの鈍足の選手だ。
4月13日巨人戦(東京ドーム)前、同期入団の丸佳浩に「打てないデブは、ただのデブだぞ」ときつい激励をもらったこともある。9連勝の好スタートを切ったチームの中で松山は1人、初打席から10打席無安打と流れに乗れていなかった。入団時から松山を知る丸だからこそ言えた言葉に、松山は9回の代打同点本塁打で応え、そこから調子を上げた。
鈴木が離脱した9月以降は、4番として4割を超える打率を残し、5本塁打、23打点と打線をけん引した。
「打てば、使わざるを得ない。いくら機動力と言っても、打てない選手は使われない。それは足が速い、遅いとは違う。打てれば使ってもらえるし、打って塁に出ないことには点は入りませんから」
今季打撃成績の打率.326、14本塁打、77打点はシーズン自己キャリアハイの数字。なお盗塁は0だった。