JリーグPRESSBACK NUMBER
阿部浩之、川崎を淡々と変革中。
勝ち方に敏感であれば優勝できる。
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph byGetty Images/J.LEAGUE
posted2017/09/08 07:00
阿部が川崎にもたらしたのは流動性あふれる攻撃、ゼロトップ以上に「勝利へのインテリジェンス」なのだろう。
大久保がFC東京で苦しんでいるのとは対照的に……。
思えば、第1戦のロスタイム。
カウンターで抜け出した小林悠にチャンスがあったものの、阿部はサイドからゴール前に放り込まずに、あえて自陣に向かってドリブルして時計の針を進めた。次の瞬間にタイムアップの笛が鳴ったのだが、こうした細部にこだわるゲームの終わらせ方が、実に慎重である。後日、その意図を聞くと、彼はこう明かしている。
「勝っているし、点をとられる方が嫌だったので。コーナーのところでもっと時間を稼ぎたかった。ああいうプレーを状況に応じてできればいい。それをクリアできたら、このチームももうひとつ上のステップにいけると思います」
兜の緒を締めながら勝ち、勝っても兜の緒をより締める。
そういう風にしながら、彼は川崎フロンターレというチームのメンタリティーを淡々と変えつつある。その後、昨年までの同僚だった大久保嘉人が、チームの現状について「変えようとしてるのに変わってくれない」とミックスゾーンで嘆いていたのは、対照的な光景だった。
「使う」「使われる」両方でハイレベルな阿部。
「個人的な目標はゴールやアシストをたくさん取ること。それが1試合1試合の勝利につながるし、タイトルにつながっていくと思う。タイトルを取ってきた経験を生かして、川崎で何が何でもタイトルを取りたい」
シーズン前の新体制発表で、阿部浩之がサポーターの前で語った目標だ。現在、リーグ戦では2桁目前の9ゴールと、キャリアハイの数字である。それでいて、アシスト数も6を記録している。
よくサッカーでは「使う側」と「使われる側」という表現をすることがある。
中盤で決定的なパスを出してゴールのお膳立てをする選手は、基本的に攻撃陣を「使う側」になる仕事が多く、フィニッシュを担うストライカーは「使われる側」になる仕事が多いと言える。
その視点で阿部浩之というプレイヤーを語るならば、「使う側」と「使われる側」の立場をハイレベルで両立させている選手だと言えるだろう。試合中は「相手は何が嫌なのか、どこを攻撃されたくないのか」を常に考え、流れに応じて自分の役割を絶妙に変化させながらプレーしている。