“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
ついに覚醒、杉本健勇の原点って?
最強のマルチロールが万能型FWに。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2017/08/31 07:00
育成年代の頃から将来を嘱望されてきたストライカー。最終予選ラスト2試合で「杉本健勇」の名を日本中に知らしめる時が来た。
「後ろも、前も、サイドも、どれも悪くないですよ」
J1第24節終了時点で、得点ランキング2位の14ゴールと大暴れ。特に7月以降は7試合8得点と絶好調で、今回の代表入りは必然だった。
「ようやくやって来たか」
昔から彼を見ている人々は、今回の代表入りをこう受け止めたに違いない。筆者もその一人だ。彼は以前から非常に高いポテンシャルを持ち、将来必ず日本代表の最前線に君臨すると見ていた。それは身体能力の高さと戦術的柔軟性を有していたからだ。
特にC大阪U-18での2年半は、彼の能力を証明した期間だった。思い出すのは、杉本が高2の頃である。筆者が「どのポジションが適正だと思う?」と聞いたことがあった。すると彼は、笑顔でこう答えた。
「後ろも、前も、サイドも、どれも悪くないですよ。後ろをやってから前へ行くのもいいかもしれませんね」
杉本は高1からC大阪U-18の主軸として活躍していたが、チームに所属していた頃にFW、左サイドハーフと左サイドバック、そしてCBと、4つのポジションをハイレベルにこなしていたのだ。
センターバックをやらせても冷静なプレーぶり。
もちろん本来のポジションはFWだが、C大阪U-18に昇格した直後は、左サイドハーフでレギュラーをつかんだ。右利きとはいえ左足の精度も高く、自らのスピードと正確なボールコントロールを駆使することで、様々な選択肢を持ったプレーを仕掛けていた。例えば、縦に突破してセンタリングを上げたかと思えば、カットインから右足シュートでゴールを狙う、といった風にだ。
しかしその期間、チームはCBの深刻な人材不足に陥った。そこで杉本と扇原貴宏(現・横浜FM)をコンバートさせる事態に至った。
このコンバートは正直驚きだったが、試合を見てみると杉本の適応能力の高さにもっと驚かされたのだ。空中戦の強さはもちろん、冷静な判断力とや裏に抜けようとする相手への対応力など、CBとしても存在感を放っていた。両足から繰り出されるフィードも正確で、攻撃の起点としても機能していた。そのプレーぶりは「このままCBとして育てても良いのでは」と思うほどだった。
日を追うごとに、杉本はCBとしてのプレーが板についていた。それでもU-16日本代表ではセンターフォワードとしてプレー。前述したU-16 AFC選手権では、アジアの屈強なチーム相手にも当たり負けせず、自慢のポストプレーで宇佐美や宮吉拓実(現・広島)らアタッカーの能力を引き出した。そして自らも準々決勝のサウジアラビア戦で、U-17W杯行きを決めるヘディングシュートを決めた。
ちなみに杉本は高2になってから、4つ目のポジションとなる左サイドバックでプレーする機会もあった。そこでも、守備を重視する動きとオーバーラップのタイミングを絶妙に使い分けていたのだ。