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F1チームの急成長には日本人あり?
ドライバー不在もエンジニアが活躍。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byMasahiro Owari
posted2017/08/27 08:00
神野が働くフォース・インディアは前半戦コンストラクターズ4位につける。
神野のプレゼンには、ちょっとした戦略的な工夫が。
学生に対してだけでなく、すでに仕事をしている人材へのアプローチも忘れていない。ヨーロッパの自動車雑誌にはF1チームからだけでなく、さまざまなカテゴリーのレースチームから、毎週のように募集告知が出されている。ただし、分業化が進んでいる現在のF1界では、より専門的な知識と技能が求められている。ただ「F1の仕事がしたい」だけでは、通じない世界だ。
そこで神野は履歴書や職務経験のプレゼンテーションに、ちょっとした戦略的な工夫を取り入れた。さらに、可能性を逃さないよう、自分の専門に関連するポジションの採用広告は見逃さず、応募し続けた。こうして今年の春、フォース・インディアに採用された。
「小松(礼雄/ハース)さんのようにイギリスの大学を卒業していたり、今井(弘/マクラーレン)さんのように日本企業(ブリヂストン)といっても、すでにF1に従事した経験があれば別ですが、採用する側からすればF1の世界に何も関連してこなかった人間、さらにはイギリスから遠く離れた国の人間を採用することに大きなリスクを感じるのは当然です。だったら、自分の強みが明確に相手に伝わるように、履歴書と職務説明のプレゼン資料を作成しました」
神野は担当者の関心事がどこにあるのかを想定した上で、自分の職務履歴を2分で理解できるよう、掲載情報の選別とレイアウトを最適化したのである。さらに面接での職務説明は単に職務履歴を紹介するだけでなく、業務の目的と責任範囲とコミットした成果、そして最終的に得られた成果やスキルを、簡単なグラフや解説図を交えて紹介した。
その上で、チームに加入した場合にどんなベネフィットをチームにもたらすことができるのかを「自分の技術とビジネスリテラシーを駆使すれば、○○の開発効率を5%改善できる」といった形で明確に提示した。
こうして神野は、昨年の12月にフォース・インディアに採用され、現在、ビークル・サイエンス・エンジニアとして車体開発に携わっている。
「数年以内にフォース・インディアの勝利に貢献する」
近年のF1で日本人エンジニアやメカニックが増えている理由を神野は「仕事に対して勤勉で、常に改善、進化しようとしているからではないか」と答える。だが、一方で神野は日本人としての自負は保ちつつも、勝負の場で「日本」を意識しすぎないことにも気をつけている。
「F1はインターナショナルなレースであり競争ですから、国籍に関係なくライバルであれば、打ち倒さなくちゃいけません。たとえそれがホンダであっても」
それは神野に限らず、F1チームで活躍している多くの日本人エンジニアが持っている意識であるように思う。もうひとつ、F1の世界で活躍している日本人エンジニアに共通する点がある。それは、F1チームに入ることがゴールになっていないことだ。