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やせっぽちの女子プロレス王者。
岩谷麻優が抱く赤と白のベルト。
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2017/07/07 11:00
スターダム史上初となる赤と白2本のベルトを巻くことになった岩谷。団体の危機に、その本領を発揮できるか?
「あまりの細さで、プロレスラーになれないかも、と」
小川は、当時の岩谷をこう評する。
「あまりの細さで、プロレスラーになれないかもしれない……と思った。デビューしても負けてばかりいて、勝てなかったから、不安だった」
だが、岩谷はついに赤いベルトにまでたどり着いた。そして、白いベルト、ワンダー・オブ・スターダム王座と合わせて、スターダム史上初の2冠王者になった。
「どこか放っておけない危うさがある。そこがすごく女子プロレスラーっぽいんです。原宿あたりを歩いている普通の女の子と変わらないでしょう。その体で試合をやり切っているところがすごい」
と小川はその魅力を語る。
身体能力は高いにもかかわらず、その外見はプロレスラーには全く見えない。
「お母さんに報告したい」
6月21日、後楽園ホールでの試合終了後のこと。「頭が真っ白」で新王者としての受け答えこそちぐはぐだったが、「お母さんに知らせたい」とはっきり言った。
この時、自身がプロレスラーになると伝えた時の母の顔を、鮮明に思い出していたはずだ。
高校を中退し、2年間引きこもりだった岩谷。
岩谷は何をやっても長続きしなかった。
高校も4カ月でやめて、東京に出てくるまでの2年間、引きこもりが続いていた。だから、母親は娘がプロレスラーになることに強く反対した。結局、最後まで許しは出なかったという。それでも岩谷はプロレスラーになりたくて、家出同然で実家を離れて、東京にやってきたのだ。
だから、新木場で行われたスターダムの入門テストに合格してプロレスラーになれることが決まった時には、大粒の涙が頬を伝った。
岩谷は前チャンピオンの紫雷のように安定した強さを見せられる女王にはなれないかもしれない。
そのキャラクターにもつかみどころが無いようで、戦いに臨むにあたっても理路整然とした言葉が出てこないかもしれない。
しかしそんな、小川が言うところの「危うさ」や「不安」が、逆に岩谷という選手をアピールする大きな要素になるのだろう。