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やせっぽちの女子プロレス王者。
岩谷麻優が抱く赤と白のベルト。
posted2017/07/07 11:00
text by
原悦生Essei Hara
photograph by
Essei Hara
「おまえ、やせすぎだよ!」
新女王の腰に巻かれたプロレス団体「スターダム」の赤いベルトはユルユルで、そのまま足元までずり落ちてしまいそうだった。
15回目の防衛戦で敗れた紫雷イオだったが、新王者を祝福しながら、ベルトを巻きつけようとして、吹き出した。
岩谷麻優、24歳。
17歳でデビューしてから6年半。スターダムのアイコンとまで言われてきたのに、届かなかった赤いベルトを岩谷はしっかりと抱きしめた。
「ワールド・オブ・スターダム王座」
紫雷がその体を犠牲にしながら、戦い守り続けてきたベルト。この王座の戴冠は岩谷にとってうれしいものになった。
元祖と異なる放物線……岩谷のドラゴンスープレックス。
岩谷は得意のドラゴンスープレックスをこれでもか、これでもかと、紫雷に放った。
柔軟なブリッジが、藤波辰爾の「元祖」ドラゴンスープレックスとは異なる放物線を描く。それは高い放物線で、相手はフルネルソンされた状態のまま急角度でマットに落ちていく。
首が限界まで来ている紫雷にとって、そのダメージはさらに積み重ねられていった。
狭いエプロンのスペースで1発目。
リング内でさらに2連発。とどめの4発目は「二段式」とも呼ばれる組手を変えて呼吸を整えてからのものだった。
「化けるんじゃないかと」
岩谷麻由(本名)という少女は17歳の時、山口から東京に出て来た。
6000円しか持っていなかった彼女に、スターダムのロッシー小川代表は救いの手を差し伸べた。
「なんというか、直感というか、この世界に長くいますからねえ。感じるものがあった。何か化けるんじゃないかと」
岩谷は入門テストに合格してプロレスラーになる夢がかなった。
「空中殺法で誰にも負けないレスラーになりたい。マスクマンにもなりたい」
同期には、年上だが、空手をやっていた美闘陽子もいた。