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ファンと交流進めるF1で心温まる話。
フェラーリとライコネンの神対応。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byMasahiro Owari
posted2017/05/24 08:00
トマくんは、ライコネンから手渡されたサイン入りキャップを手に満面の笑みを浮かべた。
リタイアしたライコネンからサプライズのプレゼント。
だが、フェラーリが用意していたおもてなしは、それだけでは終わらなかった。モーターホームでダネルさん一家を待っていたのは、なんとリタイアしたライコネンだった。
事故によって0周リタイアに終わったライコネンは、当初は義務付けられているメディアの取材に応じた後、サーキットを後にする予定だったが、フェラーリの広報から事情を聞き、ダネルさん一家が来るまで待っていた。そして、レース中には見せない満面の笑みで、モーターホームの2階に案内された一家を出迎えたという。
そして、フェラーリ・ウェアに身を包んだトマくんに、自分がかぶっていたキャップにサインして渡し、さらにレーシングシューズをプレゼントするという“神対応”をしたのだ。
「ファン・ファースト」で観客参加型イベントが増加。
今年、F1を長年支配してきたバーニー・エクレストンが第一線から退いたことで、F1界は高級路線を突っ走ってきたエクレストンの手法を見直している真っただ中だ。そこで打ち出しているのは「ファン・ファースト」で、さまざまな変化が起きている。例えばスペインGPからカーナンバーを大きくし、マシン上にドライバー名をアルファベット3文字で描くなど、視認性を高めるようにレギュレーションを変更した。
またレース以外でも2シーターのF1マシンの同乗体験走行など、一般ファンとF1との距離を縮める観客参加型のイベントを増やした。
その中で実行されたフェラーリとライコネンによるこの神対応は、生まれ変わろうとするF1を象徴する喜ばしいハプニングだった。
フェラーリとライコネンが喜ばせたのは、ダネルさん一家の3人だけではない。フェラーリのモーターホーム内でダネルさん一家とライコネンが出会うシーンは、再び国際映像によって世界中に放映され、多くのF1ファンを笑顔にさせた。
レース後、2010年から4年連続でチャンピオンを獲得してきたトップチームのひとつであるレッドブルのクリスチャン・ホーナー代表は、こう言った。
「次のモナコでは、たくさんの子供がレース中に泣き出すかもしれないね(笑)」