松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
松山英樹よ、まだチャンスはある。
苦しんだマスターズ初日と応援者。
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph byGetty Images
posted2017/04/07 14:00
初日、期待とは裏腹に苦しいラウンドを強いられた松山英樹。しかし、マスターズほど逆転が起こるコースもそうないのだ。
誰かのために勝つ、ということは可能なのか。
松山と同組で回ったリッキー・ファウラーの祖父と、しばし話しながら歩いた。ファウラーの祖父は78歳の日系人。家族からは「タカ」と呼ばれているが、本名はユタカ・タナカ。リッキーのミドルネームは祖父から取った「ユタカ」なのだ。
その祖父ユタカは、これまで一度も孫の優勝を目の前で見たことがない。ファウラーの父親ロッドも見たことがない。だからファウラーは父と祖父のために優勝を目指すのだと言い切る。
「誰かのために勝とうとしても勝てないという説がある。でも僕はそういう勝ち方をしたい。誰かのために僕は勝ちたい」
祖父ユタカは「リッキーがマスターズに出られるようになってから、私はずっとオーガスタに来ている。今年は7度目だよ。孫の優勝が見たい一心でね。勝つまではね。アッハッハ」
昨年のフェニックス・オープン会場にも祖父と父親の姿があった。だが、あのとき可愛い孫をプレーオフで打ち負かしたのが松山だったことを、父親も祖父も忘れるはずはない。
だが、素晴らしきアスリートの祖父や父には、やっぱり素晴らしいアスリート魂が溢れているようで、祖父ユタカは強風が吹き荒れ、震えるほど寒かった今日1日、一生懸命に孫を応援しながらも松山のことを心配していた。
「マツヤマ、苦しんでいるね。パットがあんなに上手くて、(フェニックス・オープンでは)あんなに決めていたのに、今日は苦しんでいるね。彼には、いいゴルフをしてほしい。頑張ってほしい。明日は良くなってほしいね」
18ホールを歩き通した祖父ユタカは、すっかり疲れて歩幅も小さくなりながら、かつて孫を打ち負かした松山に心からエールを送ってくれていた。
そう、まだチャンスはある。
松山を見ている人は、きっと松山が思っている以上に多く、松山を応援している人も、きっと松山が思っている以上に多い。
そういう人々の想い、ファンの想い、ファウラーの祖父や父親からも寄せられている温かい想いを、是非とも糧にして巻き返してほしい。ショットやパットが「良くても悪くても関係ない」のだとすれば、せめて気持ちでゴルフを上向けようではないか。
ゴルフはメンタルなゲーム。気は心。そう、アナタの言葉通り、「まだチャンスはある」。