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ホンダが勝ち得た信頼と高性能。
2017年はF1ファンの信頼回復に挑む。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2017/01/09 11:00
来季もマクラーレンを駆るアロンソ(右)と話し合うホンダの総責任者、長谷川祐介。冷静かつ率直な対応でメディアにも信頼されている。
「2回目のテストまでにエンジン5台を持ってこい!!」
例えば、'16年2月末に開始された1回目のウインターテストで、こんなことがあった。最終日にホンダのパワーユニットにトラブルが発生したとき、当時マクラーレン・グループの会長兼CEOを務めていたロン・デニスは、ものすごい剣幕でこう言ってきたという。
「2回目のテストまでに、エンジン5台を持ってこい!!」
トラブルの原因は小さなもので、内容もそれほど深刻ではなかったため、ホンダはすぐに問題を解決。結局2回目のテストは1台のエンジンで走り続けることができた。
信頼性に関して、ある程度の目処がつくと、今度は性能面について、デニスがたびたびホンダに噛み付いてきた。ある新パーツを7月のイギリスGPに向けて開発している事実を、春の段階で知ったデニスは「信頼性なんか気にしないで、もっと早く投入しろ!!」と要求してきたことがあった。
性能面でも'15年を大きく上回る改善を達成していた。
このとき、デニスとやり合ったのが、'16年に新しくホンダのF1プロジェクトを任された長谷川祐介総責任者だった。
ホンダは信頼性だけでなく、性能面でも'15年を大きく上回る改善を達成していた。それは'16年の開幕戦オーストラリアGPの予選タイムを見るとわかる。アロンソの1分26秒125も、バトンの1分26秒304も、'15年にメルセデスのルイス・ハミルトンが記録したポールポジションタイムである1分26秒327を上回っていた。しかし、2台とも予選Q3に進出できなかった。なぜなら、'16年のPPタイムは1分23秒837と2.5秒も速くなっていたからである。改善はしていたが、目標設定の読みが甘かったわけである。
そのことは長谷川も痛感していた。通常であれば、4レース分の耐久性を確認できなければ実戦には投入しないところを、長谷川は1戦分でも耐久性が確認されれば、入れるつもりでいた。だが、春の段階ではまだ1戦すら持たない可能性があった。