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浦和の2016年は成功か、失敗か。
1つのタイトルと、3つの競った敗戦。
text by
轡田哲朗Tetsuro Kutsuwada
photograph byKiichi Matsumoto
posted2017/01/04 11:30
2ステージ制に最も強硬に反対していた浦和が、その犠牲者になる。サッカーの神様はかくも残酷である。
引退した鈴木啓太が語った、ミシャの特殊なサッカー観。
浦和に“ミシャ”の愛称で知られるミハイロ・ペトロヴィッチ監督がやってきたのは2012年シーズンだった。前年に残留争いをしたチームの船出を「パスが3本もつながらないぞ」とミシャが頭を抱えたところからスタートしたと、サンフレッチェ広島時代から通訳を兼任する杉浦大輔コーチは後に述懐した。そこから5年と考えれば、常にタイトルを争える位置に居続け、ついに1つのタイトルを獲得した成果は誇れるものだ。
一方で、ミシャの特色の1つは図らずもチームを自分色に染めることでもある。それは、可変システムを導入するピッチ上の戦術だけでなく、「サッカーを楽しむ」、「内容にこだわる」といったメンタリティーの部分が大きい。実際、2015年限りでレッズ一筋の現役生活を引退した鈴木啓太は、2016年1月に開かれた記者会見の席上でこのようなことを話している。
「2011年に残留争いをして、このままレッズにいても……と思っていたところにミシャがきて。そうしたら、自分が背負っている重荷を『考えなくていい』と言われたんです。『毎日、大原(浦和の練習場)にサッカーが楽しいと思って来てくれ』と。そこから第2のプロサッカー人生が始まったというか、子供のころにやっていたようなサッカーの楽しさを呼び起こしてもらった」
リーグ戦という長距離走を走る能力は確実に向上した。
サッカーを楽しみながら、内容を向上させていくというのが、ミシャが植え付けてきた哲学だ。ここでいう内容とはボールポゼッションを高めるなどといった戦術ではなく、トレーニングで積み上げてきたチームの狙いを試合に反映するという意味だ。
それは、ここまでの5年間で常にタイトルを争い、2016年のリーグ戦で年間勝ち点1位を勝ち取ったことにも大きく作用した。リーグ戦という、いわば“長距離走”を勝ち抜くためには、年間を通したサッカーの内容が伴っていなければならない。だからこそ、うまくいかないことがあっても立ち戻るベースがあり、常にある程度のクオリティーが保たれて勝ち点を積んだ。