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あの伝説の有馬記念から26年……。
今だから話せるオグリキャップ秘話。
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph byTomohiko Hayashi
posted2016/12/15 07:00
1990年の第35回有馬記念での武豊とオグリキャップ。このレースでは17万人を超える大観衆が押しよせ、中山競馬場の最高入場者数を記録した。
「溺れてると思うくらい泳ぐのが遅いんだ(笑)」
「オグリの調教はまず、200mの馬場でじっくり体をほぐして、(栗東トレセンの)Cコースで乗る。1周目は1ハロン(200m)20-20ぐらいのペースで、終いは18-18で走っていた。それで段々心臓がハードに育っていったと思う。それに持って生まれた丈夫な心臓が備わっていたね。(強い心臓をもっていても)それでも走らない馬はいるけれど、あの馬は加えて丈夫な体や強靭な筋力、あらゆる面が備わっていたんじゃないかな。
それから、あの馬はよく飼葉を食べた。食べる音が違うんだよね。いつも飼葉桶に顔を突っ込んで、いかにもおいしそうに食べる。
ただ、どういうわけかプールは苦手だったなあ。溺れているんじゃないかと思うくらい泳ぐのが遅いんだ(笑)」
ファンレターがひっきりなしに届いた。ガンで闘病生活を送る人から「オグリががんばっているから私も頑張る」と手紙が来たのを瀬戸口氏は今でも鮮明に覚えている。
タマモクロスと演じた3度の対決は、今でも「名勝負」。
'88年、3歳の秋、1歳年上の芦毛馬タマモクロスと演じた3度の対決は今でも「名勝負」として名高い。天皇賞・秋(2着)、ジャパンカップ(3着)とタマモクロスに先着を許したが、岡部幸雄に乗り替わった有馬記念でついにライバルを倒し、世代交代を一気に進めた。
「あれが私にとっても初めてのGI勝ちでした。厩舎も盛り上がったね」
その有馬記念でタマモクロスは引退。
翌年、競走馬の充実期である4歳となったオグリキャップだが、2月と4月に右前脚に故障が発生し、春シーズンを全休。9月のオールカマーで復帰した。同レースを圧勝、次走の毎日王冠では春の天皇賞馬イナリワンを驚異的な末脚でハナ差差し切った。
続く天皇賞・秋では単勝1.9倍の圧倒的1番人気。2番人気が武豊騎乗のスーパークリーク、4番人気にイナリワン。のちに「平成の3強」と呼ばれる3頭の初対決だったが、オッズのうえでは「1強」だった。瀬戸口氏は今でも「このレースが一番悔しい」と語る。
「あの馬が一番調子がよかったのは天皇賞・秋。オグリキャップの全レースのうち、もっとも調子が良くて、絶対勝つと思っていた」