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23歳マルケスが会得した「我慢」。
3度目のMotoGP制覇で、さらに先へ。
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2016/12/01 11:00
2017年に向けてスタートを切ったマルク・マルケスは、'17年型ホンダRC213Vプロトで精力的にテストを行った。
攻撃的すぎてチャンピオンを逃した昨年の教訓。
'13年に20歳でMotoGPクラスにデビューしたマルケスは、第2戦アメリカズGPで初優勝を達成、31年ぶりに史上最年少優勝記録を塗り替え、この年には30年ぶりに史上最年少記録でチャンピオン獲得を果たした。翌'14年には、シーズン13回のPPとシーズン13勝を挙げて史上最多PP&優勝記録を更新。史上最年少記録で2連覇を達成。まさに敵なしの状態となった。
この年には、44年ぶりのタイ記録となる開幕から10連勝を達成するなど、マルケスの成長は目を見張るものがあった。しかし、この記録が、それからの戦いぶりに大きな変化をもたらす。勝つか転ぶか、というレースが続くことになるからだ。
昨年は5勝9回の表彰台で総合3位、うち転倒リタイヤは6回。転倒リタイヤに終わったレースで確実に表彰台に立っていれば、間違いなくチャンピオンを獲得していた。これが今年の戦いぶりに大きな変化をもたらしたことは間違いなく、勝てないときは着実に表彰台に立ち続ける走りでチャンピオンを獲得した。
思えば、昨年の第2戦アメリカズGPでは、予選中にエンジントラブルが発生、ホームストレート脇にマシンを止め、そこからピットまで全力疾走で走り、スペアマシンに乗り換えてポールポジションを獲得するという離れ業を見せた。
「さすがはマルケス」と大きな話題になったシーンだが、マルケスの父ジュリアさんは、「無理にPPを狙うことはなかったんじゃないか。マルクはいつも1番じゃないと気が済まない性格だからね」とリスクある走りを心配していた。それがシーズンを通して、勝つか転ぶかというレースが続き、結局、タイトルを逃した。
ホンダ・レーシングの中本副社長も成長を実感。
そんなマルケスが、今年はチャンピオンを取るための走りに転じた。フリー走行、予選では限界を探るギリギリの走りで7回のPP獲得。決勝では、その限界を超えないように走ってタイトルを獲得した。マルケスの走りを見守ってきた中本修平HRC副社長は、今シーズンをこう振り返った。
「デビュー1年目のタイトル獲得は、ラッキーな部分もあった。2年目は、マルケスの実力+RC213Vのパフォーマンス。昨年は'14年の延長線上でバイクも悪くなかった。転倒したレースをちゃんと走り切っていればチャンピオンは獲れていた。今年はルールの変更で序盤は苦戦したが、中盤以降は他社さんと比べてもそこそこ戦えたと思う。誰が言ったわけじゃなくて、去年こうしていればというレースを今年はマルクが実践してくれた。今年はマルクががんばってくれたと思うよ」