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母の声援、身重の妻、そして甲子園。
トライアウト、23歳の夢のマウンド。
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/11/15 11:30
トライアウトで熱投を見せた前中日・西川健太郎。NPBだけでなく、幅広く活躍の場を考えて「待つ」という。
「自分の理想の、強いストレートを投げ込むこと」
トライアウトはシート打撃形式で行われ、1人の投手は打者3人に投げる。
ボールカウント1ボール1ストライクから始まる変則ルールだ。西川は渡辺貴洋(元巨人育成、現BCリーグ新潟)、八木健史(元ソフトバンク育成、現BCリーグ群馬)、佐藤貴規(元ヤクルト育成、現BCリーグ福島)と対戦した。
あまり実績のない相手ばかり。結果だけで何かを語れるわけではない。ただとにかく拘ったのは「また、自分の理想の、強いストレートを投げ込むこと」だった。
3人合わせても全部でたった10球の勝負。ウイニングショットはすべて直球だった。
最初の打者を空振り三振に仕留め、2人目はセンターライナー。そして3人目。最後の1球は、3度も首を振って、めいっぱい右腕を振り抜いた。
セカンドフライに打ち取った。
スタンドでは母が、自宅では身重の妻が。
「最速は141キロでした。久しぶりに投げたことを考えれば、まずまずだったと思います。ストレートが魅力と言われてこの世界に入った投手です。だから最後の1球はどうしても真っすぐで勝負したかった。
(フォームを)上から投げたことが正解だったかと訊かれれば、それは分かりません。もしかしたら肘を下げた方がもっといいピッチングになっていたかもしれない。だけど、悔いのない選択をしたと自分では思っています」
スタンドでは故郷・石川から駆け付けた母が名前を叫びながら声援を送った。
一方、1つ年下の若妻は名古屋の自宅にいた。12月下旬には第1子が誕生する。
「いい報告が出来るようにと思って、マウンドに立っていました」