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本田真凜と紀平梨花のライバル関係。
会場を熱狂の渦に巻き込んだ名演技。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byKyodo News
posted2016/10/16 11:00
本田真凜(左)と紀平梨花(中央)のライバル関係は、日本女子の力をさらに高めていくに違いない。
歓声は聞かないようにしたが、得点には動揺した。
対する本田も、自分の演技についてコメントした。
「自分の演技に対して、よかったなという気持ちです」
出番を待つ間、紀平への歓声をどう受け止めていたのか。
「歓声を聞かないように、聞かないようにしようとしていました」
ただ、得点はどうしても耳に入らざるを得ない。130.74を聞いた瞬間、さすがに冷静ではいられなかった。
「ええっ、と動揺しました」
ただ、そこで切り替えた精神力はさすがとしか言いようがない。
「ここでやるしかないでしょう、と」
紀平、本田の2人を指導する濱田美栄コーチの直前のひとことも、集中を手助けした。
「『梨花は、真凜を強くしてくれるんだよ』と言葉をかけてくれて」
本田の優雅な演技は、鬼気迫るほどの精神力。
実は本田は、体調不良の中での試合だった。
9月末から40度近くになることもある高熱に苦しみ、体重は減少。練習もままならない中で本番を迎えていた。フリー当日の朝も「ジャンプを2本跳んだらバテバテで、どうなるかなと思いました。でも、試合を途中でやめてしまったら、ここから先がなくなるので、最後まで滑り切ろうと考えました」
「11位以内に入れればいいと思っていました」
近畿選手権の成績が西日本選手権以降へとつながるからこその言葉であり、同時にどれだけ体調面で厳しい状況にあったかを物語っている。フリーの演技中も「前半が終わったところでふらふらしていました」と振り返る。表彰式でも、咳き込むと止まらなかった。
なのに、何が好演技の力となったのか。
「梨花ちゃんの点数がスイッチを入れてくれました。すごく燃えて、トリプルアクセルという武器がない中で、どれだけ迫れるかを考えました」
優雅さの内面は、鬼気迫る演技だったのだ。逆境の、追い込まれた中で跳ね返し、今シーズンで一番の滑りを見せた。その姿は、フリーのプログラムもあいまって、「超えられるわけではないけれど、少しでも近づけるように」と本田が語る羽生結弦をどこか連想させもした。