錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER

初めて聞いた錦織圭の「申し訳ない」。
自国開催で棄権、という決断の裏側。

posted2016/10/07 17:00

 
初めて聞いた錦織圭の「申し訳ない」。自国開催で棄権、という決断の裏側。<Number Web> photograph by Hiromasa Mano

出場予定だったマスターズ上海大会を棄権することが決まった錦織。一度、本拠地のフロリダで戻って治療に専念し、次戦はスイス・インドアの予定。

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山口奈緒美

山口奈緒美Naomi Yamaguchi

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Hiromasa Mano

 その前日、錦織圭は自分自身が何かを受賞したときのように、いや、それ以上にうれしそうに、あるセレモニーにサプライズ登場した。国際テニス殿堂の「功労賞」を受賞した盛田正明・日本テニス協会名誉会長の表彰式が、楽天ジャパンオープン開催中の有明テニスの森のセンターコートで行なわれたのだ。

 錦織はお祝いの言葉をこう述べた。

「盛田さんにはほんとに小さい頃からお世話になって、そのサポートがなければ今の自分はいなかったですし、特に田舎にいた僕にとってアメリカに行けたことはほんとに大きな夢の第一歩であり、それが今まで自分を成長させた糧になって、こうやって今の自分がいるので、ほんとにありがとうございました」

 錦織が何の話をしているのかわからない人は、少なくとも観客の中にはいなかっただろう。

 テニスファンでなくとも、錦織の後ろにいわば〈足長おじさん〉的な紳士の存在があったことを、一昨年の全米オープンで一気に過熱した報道の中で知った人も多いに違いない。十数年前、錦織のフロリダへのテニス留学を私的ファンドというかたちで援助したその人が、盛田さんだ。

錦織の今を作った盛田正明さんと「盛田ファンド」。

 英語で『Golden Achievement Award』 というこの賞は、テニス界に国際的な貢献をした人物に対し、国際テニス連盟(ITF)と国際テニス殿堂が合同で授与するものだ。

 盛田さんは、日本テニス協会での長きにわたる活動と、まさに錦織の渡米も支援した「盛田ファンド」を通じての先行投資活動が評価された。

 この賞は1999年から毎年1人ずつ選出され、日本人としては2005年に受賞した日本テニス協会・元副会長でITF副会長でもあった故・川廷榮一氏に続いて2人目だ。御年89歳の盛田さんの受賞スピーチは、日本中のテニスファンに向けて呼びかけるような内容だった。

「日本から2人目の受賞者が出たということは、日本中のテニスファンの皆様が、日本のテニスをすばらしく大きくしていただいたおかげだと、本当に感謝しております。これからも皆様といっしょに日本のテニスをもっと楽しく、もっと強くしていきたいと思います。その代表が、隣におります錦織圭選手であります。これから錦織選手に続く2人目、3人目の選手を皆さんの力でいっしょに輩出して、日本のテニスをもっとすばらしいテニスにしていきたいと思っております」

【次ページ】 「圭君の良いところがいっぱい出てたじゃない」

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