錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
初めて聞いた錦織圭の「申し訳ない」。
自国開催で棄権、という決断の裏側。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byHiromasa Mano
posted2016/10/07 17:00
出場予定だったマスターズ上海大会を棄権することが決まった錦織。一度、本拠地のフロリダで戻って治療に専念し、次戦はスイス・インドアの予定。
自国開催の大会で降りかかる、喜びとプレッシャーと。
今大会第4シードのマリン・チリッチは、こんなふうに同世代のライバルの心情に思いを寄せた。
「自分の国ではいいプレーができるものですが、観客の期待に加えて、自分自身の期待も大きいので、他の大会とは別のプレッシャーがあります。プラス、勝つだろうとみんなに思われていることも難しい状況を生み出してしまいます。ケイが今回、自分の国で棄権という決断を下すのは、本当に辛かったと思う」
チリッチはこれまで15のツアータイトルを獲得したが、うち5つは自国クロアチアの大会だ。そのうちの2回は第1シードとして臨んでいたが、トップシードでありながら週末に残れなかったこともある。 チリッチには錦織の立場がよく理解できるのだ。
もちろん、その責任感と今回のケガを結びつけるのはこじつけが過ぎる感がある。
夏のハードスケジュールがたたったのではという憶測に関しても、「むしろ体調は良かったのであまりその可能性はないと思います。多少疲れはたまっているけど、準備万端できていた」と否定した。大きな過失は見当たらないし、後悔もしようがない。ならば「申し訳なさ」からすぐにでも解放されるのが健全だ。早々にフロリダに戻ったのはそのためにも正解だったと思う。一日でも早くコートに復帰することが、今回ショックを受けたファンにとっても一番の治療薬になる。