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「王道」初優勝から「三冠」へ――。
全日本プロレス、無骨な王者・諏訪魔。
posted2016/09/26 07:00
text by
原悦生Essei Hara
photograph by
Essei Hara
初めて三冠王者になった時ですら、こんなには喜ばなかったと記憶している。
9月19日、後楽園ホール。全日本プロレスの「王道トーナメント」優勝決定戦でゼウスを倒した諏訪魔は優勝カップをしっかりと抱きしめた。
王道トーナメントはまだ4回目で歴史のあるタイトルではない。
だが、「できた時から、このカップをずっと見てきた」と諏訪魔はちょっと言葉をつまらせた。
そして「うれしい」と、何度もしっかりと、お気に入りの抱き枕のように、崩れんばかりの笑顔で新しい勲章を抱いた。
「もちろん、次は三冠だという思いがある。最高の舞台でできたらいいな」
ケガで返上した「自分のタイトル」を取り戻したいという思いがみえた。
諏訪魔は2008年にキャリアわずか3年5カ月で三冠ヘビー級王者になった。
三冠獲得から8年が経ち今は39歳になったが、プロデビュー前にレスリングで五輪を目指して社会人を経験したので、プロレスのキャリアはまだ12年なのだ。
決勝戦の途中から、記憶が途切れていた諏訪魔。
9月19日の後楽園ホール。
諏訪魔の記憶は試合の途中からぶっ飛んでいた。
張り手なのかエルボーなのかわからないが、それを食らってから記憶はなかった。ただ本能のまま、血走った眼で、相手のゼウスに立ち向かっていった。
余裕などなかった。
ラリアットでぶつかり合った。
バックドロップのキレはよかった。
フィニッシュの頭上高く差し上げて叩きつけるパワーボム(ラストライド)も豪快に決めた。
だが、諏訪魔は勝ったことすら理解していなかった。
優勝の勝ち名乗りを受けてからも、和田京平レフェリーから「試合は終わっているぞ」と念を押すように強く言われた。