野球のぼせもんBACK NUMBER
バカになれるから愛される「KZさん」。
SB川島慶三、負傷をも笑い飛ばして。
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/08/18 11:30
長崎県出身、九州国際大学出身ということもあって、加入3年目ながら川島はホークスファンに愛される存在となった。
二軍復帰の2試合目、守備で見せたビッグプレー。
驚いたプレーがある。二軍で復帰して2試合目、7月6日のバファローズ戦(タマスタ筑後)のことだ。前日は1打席のみで1イニングで交代。まだ試運転もいいところだった。
4回1死二塁の場面。マウンド上の攝津正の足元を抜けた打球はセンターへ抜けそうなところだったが、深い位置で二塁手の川島は横っ飛びでキャッチした。その次のプレーだ。二塁走者のモレルはセンターへ抜けたと思い、ホームへ突っ込もうとしていた。素早く起き上がって三塁へ送球。モレルを三本間に挟んでアウトにした。
「横っ飛びをしたときには、走者のモレルと三塁コーチャーの動きも確認していました。腕を回していたらホームに突っ込む。オーバーランをしていると分かって送球しました」
実戦勘がまったく錆び付いていないことを証明した一瞬の判断である。
「ずっとテレビで一軍の試合を見ながら、出ている野手を自分自身と置き換えてシミュレーションをするなどしていました。グラウンドには立っていなかったけど、ボクはプレーしてたんです。だから3カ月は決して長く感じなかった」
怪我人の中にはナイター中継を見ることが出来ない選手もいる。野球選手なのに野球が出来ないストレスに耐えられないのだ。川島もそんな気持ちにならなかったのだろうか。
「ボクにそれを訊くのは愚問ですよ」
川島はニヤリと笑った。
「野球に対して失礼がないように」
マジメ気質である。しかし、クソまじめではない。
それが信念である。だから、たとえベンチウォーマーでも、一瞬たりとも気を抜かない。常に最高の準備をする。昨シーズンは77試合に出場して打率.274、2本塁打、20打点。ただ、活躍度のインパクトはそれ以上だった。工藤監督も川島の存在意義を高く評価していた。
マジメ気質である。しかし、クソまじめではない。
いいキャラをしている。なぜかラップを得意とし、一時期は球団スタッフがカメラを向ければ当たり前のように言葉をリズムに乗せて刻んでみせた。昨年のお立ち台では、その日が誕生日だった自身の母と同級生の松田宣浩のために、ハッピーバースデートゥーユーを歌い上げた。マイクを持たない左手を高く掲げ、親指と人差し指を立ててリズムをとった。完全にラッパーだった。