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荒れた生活から復活した水の怪物。
フェルプスが乗り越えた苦難の年月。 

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及川彩子

及川彩子Ayako Oikawa

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photograph byGetty Images

posted2016/08/10 16:30

荒れた生活から復活した水の怪物。フェルプスが乗り越えた苦難の年月。<Number Web> photograph by Getty Images

五輪獲得メダル数は史上1位、世界記録は39度樹立している。マイケル・フェルプスの伝説は、今も進行形だ。

父親との確執を乗り越え、自らも父親に。

 フェルプスの両親は彼が9歳の時に離婚しているが、その後、フェルプスは父親に会っていなかった。しかし北京五輪の際に、地元紙がフェルプスの承諾なしで父親に取材。それを見たフェルプスの心境は複雑だったようだ。

「家族は母と姉2人で男は僕1人。北京、ロンドンというような節目に、これからどう生きていったらいいんだろう。そう思っても導いてくれる父親がいなかった。辛かった」

 家族の誇りであり続けなければならないプレッシャー、相談する相手もおらず、またお金目当てで近づいてくる人たちに疲れて、アルコール依存に陥ったという。

 セラピー後、「父親とも再会した。今までずっと避けていたことだったけど会ってよかった」と明るく話す。自分を見つめ直したことで、私生活も充実してきた。

 今年5月には長年付き合ってきた婚約者ニコルさんとの間に息子が生まれた。ブーマーと名付けられた愛息はリオ五輪では毎日、フェルプスの家族、ニコルさんとともに会場に駆けつけている(ほとんどの時間はニコルさんに抱かれて眠っているけれど)。

「プールから息子の姿を見るのが楽しみでたまらない」

 息子に自分の雄姿を見せたい、ではない。スタート前にニコルさんに抱っこされたブーマー君を見ることで、自分の目標、進むべき道を再確認できるのだろう。

「以前のように眠ったら回復するという状態じゃない」

「今回の五輪は今までとはまったく違う。肉体的にも精神的にも」

 北京とロンドンの後に引退宣言しながら、その度に撤回してプールに戻ってきた。中途半端だった前回と異なり、今大会は並々ならぬ決意でレースに臨む。

 ロンドンでは7種目に出場したが、400m個人メドレーでは萩野公介に競り負け4位でメダルを逃した苦い思い出がある。

「ロンドンの時は深く考えずにたくさんの種目に出場してしまった。今回はスマートに行こうと思う」

 6月に31歳になり、「若い時のように簡単にリカバリーできない」と何種目も掛け持ちする厳しさを実感している。「練習後はアイスバスとストレッチは必須。食べ物にも気を使っている。以前のように眠ったら回復するという状態じゃないから」と話す。

【次ページ】 米国代表チームの旗手に選ばれた信頼感。

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