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比嘉幹貴「後から謝ればいいやー」
オリの頼れる男は、開き直りが凄い。 

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米虫紀子

米虫紀子Noriko Yonemushi

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photograph byNIKKAN SPORTS

posted2016/08/04 11:00

比嘉幹貴「後から謝ればいいやー」オリの頼れる男は、開き直りが凄い。<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

かつて岡田彰布元監督から「日本一うまい」と言われたけん制も、比嘉幹貴の大きな武器である。

齋藤、佐野、山田にも比嘉からのアドバイスがあった。

 2年目の19歳・齋藤綱記は投げた後、上体が横に倒れ込む癖を比嘉に指摘されたと言う。

「横のブレが多いから、コントロールが乱れるんじゃないかって。比嘉さんは投げた後もずっとホームを見るぐらいの感じで立っているので、そういうのを参考にしています」

 齋藤と同い年の佐野皓大は、比嘉とキャッチボールをした際、比嘉の胸のあたりを目がけて投げていると、「ピッチングでこのあたりに投げることはないから、キャッチボールの時から低めに、ベルトの高さより下に投げるよう意識した方がいい」と言われた。

「若手はいいピッチャーがすごく多いんです。ブルペンの球を見ていると本当によくて、赤間(謙)とか山田、齋藤、佐野とか、僕よりもずっといい球を投げるんですよ」と嬉しそうに比嘉は話す。力を持っているのにそれをまだ実戦で発揮できていない若手を見て、つい言葉をかけたくなったようだ。

 好投しながらなかなか初勝利に届かずにいた9歳年下の同期・山田には、「今年はずっといいピッチングが続いてるから、時間の問題じゃないか。我慢して、今のいいピッチングを続けてたらいいんじゃない」と励ました。独特のイントネーションでゆっくりとつむがれる比嘉の言葉に、山田も癒されたことだろう。

同期に初勝利をプレゼントして、祝福。

 その山田の初勝利に、比嘉もひと役買うことになる。7月27日の試合に先発した山田は好投を見せ、千葉ロッテ打線を1点に抑えていた。しかし1点リードの7回、1アウト2塁のピンチを背負うと、山田に代わって比嘉がマウンドに上がった。ここでも比嘉は開き直った。

「山田の初勝利がかかってるとか、ヒットは許されないとか、いろいろ頭にあったんですけど、マウンドに上がったらそれはうまいことのけて、『(追いつかれたら)あとから謝ればいいやー』ぐらいの気持ちで。そうでないと、腕が振れなくなったりしますから」

 比嘉は外角の際どいコースにコントロールよく投げ込み、ロッテの田村龍弘を空振り三振に取った。比嘉からスイッチした海田も代打・福浦和也を打ち取りピンチを脱出。左肘手術や育成契約を経験した苦労人、山田が通算10度目の先発で念願のプロ初勝利を手にした。

「僕もやっぱり嬉しかったですね。その試合に投げさせてもらえたことも、よかったです」

 比嘉はニコニコ笑って同期の白星を祝福した。マウンドでは強気に、普段は柔らかく、周囲に安心感を与えるベテランが、チームの流れを変えようとしている。

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