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最近の白鵬の相撲を丁寧に批判する。
能町みね子が「最強」に望むこと。 

text by

能町みね子

能町みね子Mineko Nomachi

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photograph byKyodo News

posted2016/05/20 07:00

最近の白鵬の相撲を丁寧に批判する。能町みね子が「最強」に望むこと。<Number Web> photograph by Kyodo News

勢の顔に向かって飛ぶ白鵬の右肘。肩であたる「カチ上げ」とはやはり違うと言わざるをえない。

朝青龍は「品格」の批判に当惑していた。

 二点目は、勝負がついた後の土俵外でのダメ押し。以前から何度も批判されており、今場所も正代と魁聖を土俵外で押しています。それを審判部に注意されてからも、勝負後に二字口に戻ろうとする琴勇輝の背中を土俵の内側に向かって突くという行為に及ぶ始末。これについては、「大したことではない」という人もいますが、さすがに擁護の意見は少なく、見苦しいと言われています。

 かつて朝青龍が横綱だった時代、彼は「品格がない」とやかましく批判されていましたが、本人は当惑していたのをよく覚えています。確かに「品格とは何か」なんて、日本人だってはっきりとは分からない。批判するときに、曖昧な言葉を根拠にするのはよくないのだ。また、「横綱は格下の力士をしっかり受けて相撲を取るべきだ」という批判もよく聞くけれど、これについても反例がいくらでも出てきてしまう。

 だから、私は私の言葉で白鵬の相撲を批判してみたい。

横綱は「どうしても勝てない相手」がいない存在。

 まず、肘打ち気味のカチ上げについて。私がこれを批判するいちばんの理由は、端的に言うと「横綱らしくない」というのが最大の理由です。

 さて、「横綱らしい相撲」ではやはり曖昧なので、それは具体的にどういうことか考えてみます。「横綱らしい」とはつまり、最高位ゆえに基本的に誰よりも強いということであり、相撲界の代表ですから、少なくとも「相手を土俵から出す」「相手の足の裏以外の部分を土俵につける」という相撲の大原則の勝ち方に沿っている、ということになります。

 だから、格下の力士が自らの弱点を補うための、立ち合いでの奇策――立ち合いの変化、猫だましなどを使うのは到底横綱らしい相撲とは言えないし、脳震盪での失神を狙ったり、執拗に顔を張って出血させるなど、大原則の勝ち方に直接つながらない肉体的ダメージを与える技も到底横綱らしいとは言えません。

 今までにも板井、旭道山、垣添など、一発KO(脳震盪)で相手を仕留めた力士はいました。立ち合いの張り手一発で久島海を失神させた旭道山の取組は、危険なものだったにもかかわらず、伝説の一番として語られることもあります。しかし、これらの力士はほぼ平幕に在位していた力士で、この技自体も一場所にそうそう何度もやっていたわけではないはず。もちろん肘打ちではなくあくまで平手打ち(あるいは掌底)です。

 横綱とはいえ調子の良し悪しもあるから、絶対に15日間「横綱らしい相撲」を取るべし、とまでは言わない。しかし、お金を払って見に来る客は、横綱らしい相撲を見たい、そしてそんな横綱相手に奮闘する力士が見たい、と期待して場所に来ます。白鵬は今場所すでに失神狙いの技を3回も出している。奇策ばかりの横綱らしくない相撲を見せられては、不興を買うのも当然だと思います。

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