野球場に散らばった余談としてBACK NUMBER
野球の華、レーザービームが消える?
コリジョンルールが生む困惑の数々。
posted2016/05/19 10:30
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph by
NIKKAN SPORTS
これから、ちょっとあいまいな話を書く。分かりにくくて恐縮だが、監督やコーチ、選手だけでなく、審判までもが首をかしげるから無理はない。
いま、プロ野球界で注目を集める話題がある。急に降って湧いたような「コリジョン」という響きに耳慣れない人も多いだろう。英語の“collision”は、「衝突」という意味だ。本塁での激突を避けるために、今年から導入されたルールである。
4万3840人の異様などよめきが、すべてを物語っていた。5月11日、甲子園での阪神対巨人戦。バックネット裏の記者席で戦況を見ていて耳を疑った。3回2死二塁。脇谷の中前打を捕った大和が本塁にワンバウンド送球。捕手の原口が二塁走者の小林誠司が滑り込んでくるのを待ち構えていた……。感覚的にアウトだと思った。嶋田球審も迷わずアウトを宣告していた。
約2分間の映像によるリプレー検証後、コリジョンルールが適用され、アウトがセーフに覆ると、かつてないざわめきに包まれた。疑問が噴出する。高代延博ヘッドコーチが「ブロックしたらダメ、体当たりしたらダメというルールだろ。アウトをセーフにしたら野球が変わってしまう」と嘆けば、鋭い送球を見せた名手の大和も「あれで無理だったら結構、難しいところがある。考え直さないといけない」と首をひねった。
打者走者が得点圏に進む危険を考えると……。
いささか誇張した表現になるが、新ルールによってプロ野球の「レーザービーム」が激減するかもしれない。審判のジャッジは絶対だ。だから、プレーする選手が公然と異論を唱えることはない。だが、ゴールデングラブ賞にも輝いた、あるベテラン外野手は、こんな懸念を抱いていた。
「もちろん勝負するところは勝負しないといけないけど、あのプレーがあのジャッジになるなら、カットマンに投げて、カットマンの判断に委ねるほうがいいのかとなってしまう。打者走者が二塁に行ってしまうでしょ。得点圏に進まれたら、次の得点につながることもあるわけだからね。あのプレーを見た外野手なら、みんな思うことだよ」
くだんのシーンをもう1度、振り返る。巨人1点リードの3回に大和が本塁送球。その間に打った脇谷は二塁に達していた。阪神は小林誠だけでなく、直後に脇谷のホームインまで許した。