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クロップとトゥヘルの決定的な「差」。
リバプールは何故大差を覆せたのか。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byAFLO
posted2016/04/15 18:50
ドルトムントのファンは、かつてこの男がいかに頼もしかったかを思い出していたことだろう。
香川が下がった直後に決められた痛恨のゴール。
次のゴールは、ドルトムントにとって実に嫌な形で生まれることになった。後半33分、リバプールのコーナーキックのタイミングで香川が下がり、センターバックのギンターが入った。通常ならば、セットプレーのタイミングでの交代ほとんどないのだが、守備的な交代であり、高さも加わるという理由だった。ちなみに、この時点でリバプールはチャンが治療のためにピッチの外に出ており、1人少ない状態だった。
にもかかわらず、そのCKからリバプールのゴールは生まれた。ニアサイドでそれたボールを、サコが押し込んだのだ。香川がいた時は、ニアサイドに速いボールが来ることを警戒して香川がそのスペースに入り、リバプールのCKを上手く封じていた。定石とはずれた交代をして、失点を喫したのだ。
そして後半アディショナルタイム、試合の決着はFKだった。
リバプールはファーサイドに多くの選手を集めておいて、スタリッジがニアサイドのスペースに出てボールを受ける。スタリッジはボールのコントロールをミスしたものの、全速力で走ってきたミルナーに絶好のタイミングでパスがつながる。ドルトムントのFWオーバメヤンは、ミルナーのマークを外してしまっていた。そしてミルナーのクロスに、ファーサイドでロブレンが頭であわせた――。
リバプールはまたしても、奇跡としか言えないような逆転劇を演じてみせたのだ。
「この戦いを説明するのは難しい。素晴らしい夜だ」
クロップはこう話した。
「この戦いを説明するのは難しい。素晴らしい、実に素晴らしい夜だ」
一方、ドルトムントの香川はこう振り返った。
「彼らには歴史があり、素晴らしい選手がいる。スタジアムでもそういう雰囲気を感じました。だからこそ勝ちきりたかったし、上に行きたかった。でも、この結果は受け入れるしかないです。逆転したということは、リバプールのほうが勝っていたのかな」
トゥヘルの最大の武器は、相手に合わせた戦いを徹底してきたからだ。リバプール戦でそれを放棄し、エモーショナルな、選手のハートに訴えかける戦いを選択したのは指揮官のミスだった。
その原因は、彼のヨーロッパカップ戦における経験のなさだろう。
選手としてはもちろん、指導者になってからも、ドルトムントに来るまでに欧州のカップ戦を体験したのは、マインツ時代のELプレーオフしかない(結果は敗戦)。対するリバプールには、監督のクロップも含めて、欧州カップ戦の舞台で逆転勝利をつかんだ歴史や経験があった。