ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
“チーム松山”、3度目のマスターズ。
キャディとトレーナーが語る関係性。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byAFLO
posted2016/04/04 10:30
最近はゴルファーが「we」と複数形の主語で語ることも増えてきた。ゴルフは一人ではできないのだ。
松山のトレーナーも、情報収集に熱心な男。
進藤キャディ同様、米国で松山に帯同するスタッフに飯田光輝トレーナーがいる。
過去に日本アマチュア選手権に出場した経験もある元トップアマ。クラブを置いたあとは中嶋常幸に始まり、日本ツアーで活躍する小田孔明や藤本佳則らを支え、2014年から本格的に松山のパーソナルトレーナーになった。
必ずしもケガが少ない選手ではない松山に対し、早朝から始まる日々のトレーニングやラウンド後のケアを入念に行い、ときに厳しく叱咤するのが仕事である。
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その彼もまた、米ツアーで活躍する人々の“課外授業”を受けるために足を運んでいる。
昨年9月、飯田トレーナーが向かった先はテキサス州ダラス。いまをときめくジョーダン・スピースの故郷かつ本拠地である。
スピースのトレーナーを務めるデーモン・ゴダード氏とは、2014年の全米オープンで2人の選手同士が同組でラウンドした際に知り合った。話を進めるうちに「いつでも見学に来てくれてかまわないよ」というゴダード氏の心意気にも助けられ、連戦の合間を縫って敵情視察を実行した。
思えばスピースの昨年の活躍は、周辺の選手にも大きなインパクトを与えるものだった。マスターズ、全米オープンとメジャー大会で連勝。年間グランドスラムさえ期待させ、あっという間に世界ランキング1位に君臨した。まだ22歳である。
松山も、スピースの飛距離の伸びを気にしていた。
「ジョーダンは何をしていて、僕らには何が足りないのか」と、飯田トレーナーは問題意識を語る。
「英樹が言うんですよ。『メリオン(2013年全米オープン)のときはジョーダンの飛距離は自分のうしろだったのに、それがいつの間にか並ばれて、去年は越されることさえあった』って。それはいったいなぜなのか。ジョーダンも若いから、体が成長してリーチが長くなったりしたことで飛ぶようになった可能性もある。道具のせいかもしれない。でも僕の仕事としては、フィジカル面からその原因を知りたかった」
ダラスのにぎやかなダウンタウンから少し離れたところにあるゴダード氏のジムは、実を言うと、拍子抜けするほど質素なものだったそうだ。平屋のショッピングセンターの一角に、ランニングマシンやエアロバイク、わずかなトレーニング機材がぽつんと置かれただけ。普段彼らが転戦で宿泊する一般的なホテルのほうが、よっぽど設備が充実していたという。