モータースポーツ解体新書BACK NUMBER
レースでコンマ1秒を縮める壮絶な作業。
ピットマンの闘いを知っているか?
text by
大串信Makoto Ogushi
photograph byTOYOTA
posted2016/03/31 16:00
ドライバー同様、危険と隣り合わせのピットマンの作業。一流のチームには一流のピットマンが必ずいる。
マシンが入った瞬間から、ピットは戦場と化す!!
もしマシンにトラブルが起きていればピットマンはまずメカニックとしてマシンの修復にかかるが、マシンが順調であればそれぞれピットマンとしてピット作業を分担し、できるだけ短時間に必要な作業を終えてマシンを再びコースへ送り出すために働く。
まずタイヤ交換要員は、マシンが停止する位置を想定して交換用のタイヤを準備し、ホイールを固定しているロックナットを緩め再び締め込むためのツール、インパクトレンチを持って身構える。給油要員もまた燃料注入用のホースを引き、マシンがやってくるのを待つ。
ピット作業は決して単純作業ではない。
レース中、興奮状態にあるレーシングドライバーがピットに滑り込んできたとき、ピットマンが待ち構えている位置にピタリと止まるとは限らない。たとえば停止位置が想定ポジションから30cmずれただけでも、ピットマンは即座に自分の位置を取り直さなければならない。30cmのずれが、確実にコンマ何秒か作業着手を遅らせてしまうからだ。
マシンが停止した瞬間、ピットマンはマシンに飛びつく。
インパクトレンチをタイヤのロックナットに差し込んで引き金を引きロックナットを緩め、ホイールを取り外し、転がらないように路面に置くと、ニュータイヤに手を伸ばし引き寄せてマシンに装着、ロックナットを締め込む。多くのレースでは、1台にかけられるピットマンの人数が制限されているため、これらの作業を1人のピットマンで行うことが多い。
インパクトレンチは引き金を引けば窒素ガスの圧力で瞬時にナットを緩めてくれるが、ナットを最終的に外すタイミングも差し込むタイミングも、ピットマンの判断で決める必要がある。外すのが早すぎればナットは緩みきっておらず、タイヤが外れない。差し込む際に角度を間違えれば、締め込んだときにナットのネジ山を壊してしまう。最適のタイミングと角度を自分の身体に覚え込ませなければならないのだ。
低い姿勢で身体を捻り重量物を一瞬で正確に設置。
交換するタイヤはレース用で見た目より軽量であるとはいえ、ホイールを含め1本10kgを超える。メカニックはそのタイヤを瞬時に外し、瞬時にニュータイヤを装着する。レース用ブレーキは衝撃で破損する場合もあるので、取りつける際はホイールを接触させないよう中心を正確に合わせてはめ込まなければならない。そのためには正確にタイヤを中心の高さへ持ち上げた上で取りつける必要がある。
マシンはジャッキアップされているとはいえ、タイヤ装着位置は低い。腰を落とした姿勢で身体をひねり、それぞれ10kg以上の新旧2本のタイヤを正確にしかも短時間で入れ替えるには相応の筋力が必要だ。ウォームアップが十分でない場合には腰回りに故障を起こすことさえあるという。