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バンディエラの引き際はいつも困難?
トッティが“ローマ王”から追放。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2016/03/10 10:30
招集外となり、スタンドからパレルモ戦を観戦したトッティ。こんな風に視線を集めるのが彼の望みであるはずがない。
キャリアの最終年をベンチで過ごす覚悟はあるか。
3月1日、難航する新スタジアム着工問題へ介入するため、ローマに滞在中のパロッタ会長がトリゴリア練習場を訪れた。
機を逃すまいとトッティは、会長へ「もう1年プレーしたいんです」と来季の契約延長を直訴することに成功した。会長は通り一辺の対応でトッティのキャリアを褒めちぎる一方で、将来については「自らの進退は己で決めよ」と突き放している。
現在のローマにあって、パトロンから全幅の信頼を受けているのはスパレッティの方だ。
現場の決定権は、来季も全面的に指揮官に委ねられている。トッティがどうしてもローマでの現役にこだわるのなら、“ベンチに座ったまま、最後のシーズンを過ごす覚悟はあるか?”という問いかけに答えを出さなくてはならない。
ローマは4日のフィオレンティーナ戦で4-1の大勝を収め、破竹の7連勝で単独3位に浮上した。
戦術の意図を理解し守備も怠らないFWサラ―や、1月の市場で加わったFWエルシャーラウィとFWペロッティら若手の積極起用によって、スパレッティのチーム改造は着々と進む。中盤の要であるMFピアニッチやMFナインゴランも「流れが変わった」と口を揃える。
トッティの24年分の生き様が問われている。
歪な「トッティ>チーム」の構造はもはやありえない。「来季はスクデットを獲れる戦力が欲しい」と宣言した指揮官は、不退転の覚悟で主将に現実を突きつける。
「今、目の前のゲームに勝つために必要なのは運動量と献身性だ。チーム全員がプレスをかけるべきときに、39歳のトッティに40mスプリントで自陣へ戻れ、と命じるのは酷なことだろう。トッティのことは戦後最高の選手だと思っている。彼の心の命ずるままに、最も正しい形で彼がキャリアを終えてくれることを願っている。だが、今こそこのクラブへこびりついた脂肪をこそぎ落とすときなのだ。過去の感傷に浸っている場合じゃない」
トッティはなおも抗う。
76分から途中出場したフィオレンティーナ戦では、左ポスト直撃の惜しいFKを放った。
「俺は今でも自分を現役だと感じている。ベンチに居続けるのは嫌だ、当たり前だろ。俺は試合に出たいんだ」
今季限りでユニフォームを脱ぐにせよ、現役を続けるにせよ、ローマのバンディエラとして君臨してきたトッティの、24年分の生き様が問われている。