相撲春秋BACK NUMBER
“孤独”をまとった昭和の大横綱。
北の湖は大鵬を「オヤジ」と呼んだ。
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph byNaoya Sanuki
posted2016/01/06 12:00
理事長時代は多くの問題に悩まされた。“憎らしいほど強い”と評された大横綱は、62歳で惜しまれつつ逝去した。
「なんでも『道』ですよ」
「今、どんな思いでいらっしゃいますか」
との質問に、「オヤジ」を失った北の湖の第一声は、動揺を隠せなかったのか――いささか拍子抜けする返事でもあったという。
「ええ、ご近所ですからね……」
どこか不器用で、朴訥で――雪深い北国生まれの男は、いま、天上で「3人のオヤジ」に囲まれていることだろう。戦い続け、頂点に君臨した男の「孤独」は、今、癒されているのだろうか。
かつての大鵬は言った。
「なんでも『道』ですよ。相撲道――道は『生き方』です。日本人の心からは、けして、なくならない。これね、横綱だけではないですよ。人間として、誰もが死ぬまで、自分との戦いなんですから」
ふたりの「一代年寄」の看板が下ろされた「横綱通り」。かつての大横綱たちが歩き、その足跡を遺したこの道を、未来を担う力士たちが、今も往来していた。