スポンサー以外からの収入源は？

　トップアスリートとしていくつかのメーカーからスポンサードを受けており、大事な収入源になっているはずだが、それだけで食べていける業界ではない。ましてや3児の父として家族を養っていく身。失礼ではあるが、ある種実業団ランナーに近いとも言えるセミプロ的環境を捨ててまで奥宮が独立したことを、私はずっと不思議に思っていた。

「じつは前職在籍時にも市民ランナーを対象としたセミナーを行っていたんですが、徐々に会社の業務、セミナーのどちらもが中途半端になってしまっている気がしてきて。だったら好きなトレイルランのセミナーやツアーをもっとやりたい！　と決断しました。アスリート的な理由というより、普及活動に関わりたいというところが大きいですね。

　トレイルランニングのレースではまず賞金など出ませんから、セミナー参加費は収入のひとつです。だから、天気や内容などあらゆる要素がバッチリ上手くハマったセミナーでも、参加者が少なければプロとして100％満足とは言えないんですよね。

　妻は最初は独立に反対でした。なので、具体的に収支をシミュレーションしてみて、プレゼンをして、何とかOKをもらったんです」

この道を子どもが夢を見れるような道に。

　なるほど、いわゆるプロアスリートとしてイメージされる活動よりインストラクターに近いかもしれない。ただ、現役第一線のアスリートが指導的な仕事を並行して行うというのはトレイルランニングならではの形だろう。

「ある一人の小さなファンとの出会いにも背中を押されました。レース会場で応援してくれていたその子のお母さんから『うちの子が将来、奥宮さんみたいなトレイルランナーになりたいって言うんです』と声をかけていただいて。すごく嬉しかった半面、喉まで出かかったのが『お母さん、トレイルランニングは儲かりませんよ』の言葉でして……（笑）。

　でも、ふと思い返したんです。待てよ、この道を子どもが夢を見れるような道に自分でしていけばいいんじゃないかって。ほら、登山のガイドさんって職業として成立しているじゃないですか。だからトレイルランナーも職業として成立するってところを証明したい。

　もちろん、いちアスリートとしても体の動く限り本気で走り続けます。トレイルランニングって、応援する選手の活躍を自分のことのように喜んでくれる人がとても多いんですよ。不思議なんですけど。セミナー然り、誰かが喜んでくれる姿がモチベーションです」

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