マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
2位の意外な顔ぶれと“一芸”指名。
2015年、ドラフトは新たな時代に。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2015/10/28 10:50
甲子園で清宮幸太郎と並ぶスターになったオコエ瑠偉。この太腿は、いやがおうにも期待をそそる。
巨人の重信指名で、どよめきは最高潮に。
頼みの綱・宮西尚生までヒジのクリーニングで来季前半が危ぶまれ、何が何でも左腕がほしい日本ハムが指名した加藤貴之(投・かずさマジック)をはさんで、巨人が重信慎之介(外・早稲田大)を挙げて、報道エリアのどよめきは最高潮に達する。
桜井、重信……見出し、どうするんだよ……。スポーツ紙記者のためいきが聞こえる。
やはり、人気球団にはビッグネームが欲しいようだ。
アマチュア時代のビッグネームがナンボのものか。プロに進んで活躍すれば、そこではじめて本物のビッグネームとなり、アマでちょっと売れたぐらいの名前なんて、プロで1、2年停滞すれば、世間はすっかり忘れてしまう。彼らの“これから”について語り、伝えればよいのに。
重信慎之介を「足のスペシャリスト」と評するのは、決して当たっていない。
彼は立派に三拍子そろった、総合力の外野手に成長した。
早稲田大では茂木栄五郎(内・楽天3位)も、入学時に比べれば別人のような飛距離を獲得したが、重信慎之介のバッティングの力感アップも賞賛に値する。
内角の140キロ台をパチンと引っぱってライナーでライトの頭上、右中間を襲う打球は、学生当時の青木宣親(現・サンフランシスコジャイアンツ)が重なり、併せて、強肩と前にも後ろにも強い守備ワーク。そして誰もが認める快足は、盗塁スタート時の“横1m”の速さ、スライディングスピードも含め、プロで盗塁王を望めるレベルにある。
しかし、私が編集した『野球人』の「ドラフト特集号」では、それほどの逸材を落としている。私が重信慎之介のそれほどの成長を確認したのはこの秋。雑誌が印刷にまわってからだった。完全な「敗北」であった。
総合力よりも、一芸での指名が多かった今年。
本来、ドラフト1位、2位という“地位”は、近い将来ローテーション投手になり、レギュラー野手としてチームの核になる人材のために用意されたものである。
これまでのドラフトでは、そうした期待に応えられそうな総合力を持った選手たちが指名されることが多かった。
しかし今年のドラフトは、各球団が補強ポイントを埋められる“一芸”に秀でた選手を2巡目からなりふり構わず指名していった点で、これまでのドラフトと一線を画した。
とりわけ脚力の高さは、全身の運動神経、身体能力の優秀性、そして意外なパワーを証明しており、たとえばバッティングに不足を感じたとしても、プロ入り後のトレーニングと練習で十分成長が期待できることも、何人もの前例が証明している。
さらに、オコエ瑠偉(関東一高)の存在。
夏の甲子園であれだけファンを魅了した、スピードという魔力。ファンが野球に最も求めているのがスピードだということを、夏のオコエでプロ野球全体が学習したのかもしれない。