猛牛のささやきBACK NUMBER
ケガと戦い200%でプレーした169cm。
平野恵一がユニフォームを脱ぐ。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKYODO
posted2015/10/07 10:40
桐蔭学園、東海大を経て、自由枠でオリックス入りして14年。ベストナインとゴールデングラブ賞が2回ずつ。通算打率は.279だった。
「もう、誰かのせいにするのはやめようや」
守護神の平野佳寿がサヨナラ打を打たれるなど後味の悪い負け方で連敗し、優勝の可能性が一気にしぼみかけた時、平野恵が呼びかけて選手ミーティングを開いた。
「オリックスが優勝争いをするなんて誰も想像していなかった中で、今この位置にいるのは、ここにいる選手みんなの活躍のおかげ。だから、誰かがエラーしたから負けたとか、抑えられなかったから負けたとか、もう、誰かのせいにするのはやめようや」
その言葉で澱んだ空気が一変し、チームは10月2日のソフトバンクとの直接対決まで優勝の望みをつないだ。
言葉でチームを引っ張る稀有な存在。
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西勇輝の記憶に残っているのは、昨年9月16日のソフトバンク戦だ。首位との直接対決で先発登板した西は、5回、李大浩に3ラン本塁打を打たれ、マウンド上で悔し涙を流した。
そのとき平野恵は、「まだあるぞ!」とマウンド上で西を叱咤した。
「まだここで終わったわけじゃない。まだお前が投げる機会はあるんだから、これからや。そんな申し訳ないなんて思う必要はない。お前1人でやってるわけじゃないんだから。それにお前がどれだけ前半戦貢献してくれたかってことはわかってるんだから」
プレーで模範を示すだけでなく、声や言葉でも周囲を引っ張り、チームをまとめられる稀有な存在。その平野がいなくなったオリックスには、プレーで引っ張るタイプの選手はいるが、言葉で周りを動かせる選手はなかなかいない。
来季の監督に就任することが決まった福良淳一監督代行は、その役割を期待する選手として、宮崎祐樹や伏見寅威の名前を挙げた。
「宮崎は元気があって適任だと思う。ちょっと明るくできたらな、と思うんだけどね」
芸達者で天性のムードメーカーである宮崎や、若いが物怖じしない伏見は、ベンチの雰囲気を明るく変える力がある。しかしまだ2人とも、1シーズンを通して一軍に定着した経験がない。
「(監督に)そう言ってもらえるのは嬉しいです。でも、プレーで認められないと意味がないですからね」
宮崎はそう言って表情を引き締めた。
後継者候補の西野も、覚悟を持って来季に臨む。
「僕もこれから、あんな風にならなきゃいけないと感じている。でも恵一さんが抜けた穴は大きい。その穴をすぐに一人で埋めることは難しいと思うので、みんなの力で埋めていきたい」
5位からの巻き返しを図る来シーズンは、平野の背中を見てきた若手、中堅のムードメーカーが、主役の座にのし上がることが必要だ。