サムライブルーの原材料BACK NUMBER
一回りふてぶてしくなった森重真人。
CBにとって重要な「それはそれ」。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2015/09/12 10:50
ボランチでのプレー経験もある森重真人。吉田、西川とのトライアングルは後方からのビルドアップにおいて日本の大きな武器になるはずだ。
森重の言葉で思い出した、中澤佑二のスタンス。
「別の試合になるんで、それはそれ、これはこれですね」
その言葉を聞いたとき、日本代表のセンターバックを長く務めてきた“鉄人”中澤佑二のスタンスがふと頭をよぎった。彼はチームが負けたとしても、次に引きずらない、持ち越さない。いい意味での開き直りと割り切りが彼をあれだけの名センターバックに成長させたのかもしれないと思ったものだった。
前線は、シュート1本外しても挽回の余地がある。だがキーパーやセンターバックは、1本決められたらシビアな評価が下る。とはいえ、チームに落ち着きをもたらさなければならないポジションや立場である以上、重く受け止め過ぎて自身が入れ込んでしまったら意味がない。
それはそれ、これはこれ。
軽く受け止めればいいということではなく、一喜一憂しないふてぶてしさが、森重の「どっしり」にもつながっているような気がした。
流れを一発で変えたプロフェッショナルファウル。
FC東京でも、憎いほどふてぶてしいプレーがあった。
あれは8月16日のガンバ大阪戦だった。1-1で迎えた後半10分、スピードに乗って中央突破を図ろうとする宇佐美貴史を、森重はファウル覚悟で食い止めている。
前で止められなかった味方に怒りを示すように右手を振り上げ、声を挙げる。直前にはパトリックに同点ゴールを許しており、ここで宇佐美に突破を許してしまえばなおも相手を勢いづかせてしまう怖れがあった。
試合直後、経験豊富な36歳のGK榎本達也は絶賛していた。
「まさにキャプテンの働き。あれでチームが一気に引き締まった。イエローだったけど、チームにとって間違いなく必要なプレーだった」
この4分後、FC東京は勝ち越しのゴールを挙げて2-1で勝利を手にしている。決定的な場面を防いだばかりでなく、味方に流れ自体を呼び戻したプロフェッショナルファウルであった。
いい意味でのふてぶてしさは、彼のスケールアップを示すもの。
カンボジア戦、アフガニスタン戦のパフォーマンスも「それはそれ」で片づけて、格下相手ゆえに満足することは決してないはずだ。アジアのライバル、そして世界の強豪相手にこそ存在感を見せていかなければならないことを、誰より彼自身が分かっている。
酸いも甘いも経験してきた28歳の森重真人は味のあるセンターバックへと、その階段をのぼっている。