野球善哉BACK NUMBER
練習中は欲を持ち、試合では無欲に。
東海大相模の独特なメンタル指導法。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2015/08/19 19:00
「初回の点が非常に大きかった。しかし、それ以上に大きかったのは次の1点」と語った門馬敬治監督。
まったく隙がなかった東海大相模の守備陣。
守備でも、東海大相模に抜かりはなかった。
5回表の守備のシーンである。5-0とリードしながら2イニング0が続き、反撃を受けた。1死二塁から関東一の2番・井橋俊貴が一塁前への絶妙なセーフティーバント。一塁手の磯網、二塁手の千野がボールを追うが、内野安打を決められた。しかし、一塁が間に合わないとみると、その刹那、一塁手の磯網はボールを三塁へと転送。飛び出した三塁走者を刺したのだ。飛び出したといっても、オーバーランした程度である。
この守備に、うならされた。ビッグプレーを成功させた一塁手の磯網は言う。
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「僕たちは、先の塁、先の塁を狙う走塁練習をしていて、あのケースでは三塁走者が飛び出してはいけない、という意識を持っていました。走塁練習をする中で、守備もその意識を持っていたので、三塁へ投げました。いつもの練習の成果が出ました」
5-0から試合がどちらに向かうか分からなかった状況の中で、相手の勢いを遮断させたのだ。このプレーで関東一の勢いは止まった。
その直後の5回裏、東海大相模は相手守備陣のミスを絡めて4得点。
序盤の攻撃、そして守備・走塁の面でもまったく隙を見せなかった。東海大相模は歴史ある強豪校として、見事に洗練された戦いぶりを準決勝という舞台でも見せつけたのだった。
練習中には欲を持って。試合では欲を捨てなさい。
誰がどう見たって完ぺきな試合運びだったが、指揮官含めナインには慢心の様子は見られない。そこには指揮官が常日頃から口酸っぱく、ナインに諭してきた言葉があるからだ。
それは「欲を持つな」という言葉である。
杉崎は言う。
「監督には、練習中は常に欲を持って取り組めといわれています。もっとうまくなりたい。もっともっと打てるようになりたいと。その気持ちが自分を追い込めるのだからって。でも、試合になったら、欲は捨てなさいと。長打を打ちたいとか、自分が試合を決めるんだという気持ちは捨てるようにしなければいけない」
この試合で、その象徴的な場面が見えたのは初回に4点が入った後の磯網の打席である。
磯網は4点奪取の後、右翼線に二塁打を運んでいる。ちなみに、磯網は甲子園の大会個人記録・最高打率(ベスト8以上の出場校)である.727を超える可能性を残している、絶好調男である。
磯網は言う。
「もし、記録を達成するために打ったヒットがチームの勝利に貢献できるのなら、記録は達成してもいいかもしれません。でも、ランナーが二塁にいるのなら、(ランナーを三塁に進めるため)右方向を意識して、それが二塁ゴロでアウトになってもいいと自分は思っています。監督から欲を持つなといわれているので、センター方向への意識はこれからも忘れずにいたいです」