山崎が伊藤に贈ったグラブには“YASU”の刺繍が。

　4月30日、福島ホープス戦。

　開幕から中継ぎで調整していた伊藤拓郎が、いよいよ調子を上げ、はじめて先発のマウンドに上がったこの試合。伊藤の左手にあるグラブには“YASU19（山崎の背番号）”の刺繍が見えた。

「これは、山崎さんが贈ってくれたものです。この前、古村が持ってきてくれた道具の中にありました。特にメッセージはありませんよ。でも……気持ちは受け取りました。この前半戦の山崎さんの活躍、凄いですよ。嬉しいですよ。僕もあの場所に絶対に帰る。帰って同じグラウンドで投げ合いたいって、強く思います」

　伊藤はその後、現在までに先発で3勝を挙げている。調子の波はあるものの、スライダーは相変わらずキレキレ、スピードも140キロ台まで戻ってくるなど、段階的に調子は上がってきている。そして、高校時代から何度躓いてもその度に粘り強く立ち上がってきた伊藤には、22歳のベテラン投手とでも喩えたくなる投球術がある。この1年でのNPB復帰。それだけを目指し、山崎のグラブと共に前を向き続ける。

いつか、同じマウンドで投げ合う姿を!!

　一方、開幕から首位を走ったベイスターズは、その後、交流戦で10連敗という大きすぎる傷を負いズルズルと後退。守護神の山崎も6月9日の東北楽天戦でペーニャにプロ入り初被弾となるサヨナラ本塁打を浴びての痛すぎる黒星を喫した。

　強気で押していた山崎もさすがに当日はへこんだようだが、12連敗目を喫した6月20日の夜。ツイッターで「みんな、みんな、勝ちたいんです。（中略）どうか、明日も一生懸命応援して下さい」（抜粋）と最悪の空気の中、瞳孔が開きかけたファンに向かってそんなメッセージを発信し、負けに慣れきった大洋ファンをも奮い立たせてしまった。ひとつの負けを後日に引き摺るような、ヤワなメンタルはしていない。

「一時は体がキツイ時もありましたけど、そんなことよりも今、一軍のマウンドに立って投げられることが楽しいですし、嬉しいんです。僕自身、一度は野球を諦めかけましたが、そこからいろんな人に期待してもらって今こうしてプロ野球の世界で投げています。僕はその人たちの思いも背負って投げているつもりです。

　拓郎も……僕が今ハマスタで投げている姿を見て、少なからず刺激を受けていると思うんです。あいつは、帝京のグラウンドでライバルとして共に切磋琢磨してきた後輩です。必ずもう一度這い上がってきますよ。あいつの凄さは僕が一番良く知っていますから」

　高校時代から幾つもの逆境を乗りこえてきた2人が、同じマウンドで魂を削って投げ合う。いつの日かそんな日が現実のものになるような気がしている。