松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
「もったいなかったなと思うけど」
松山英樹、全米のダボは次のために。
posted2015/06/22 16:15
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph by
Jun Hiraoka
あれは全米オープン3日目の夕方だった。54ホールを終え、通算3オーバーで最終日を迎えることになった松山英樹は、練習場で軽く球を打ち、宿舎へ引き上げようと歩き始めた。
首位との差が最終的に何打になるかは、そのときはまだわからなかった。が、おそらくは7打差か、8打差。もしかしたらそれ以上。
そんな状況下で松山を囲んだ日本メディアは、誰一人彼に勝利への可能性を尋ねることはなく、質問はその日の14番で叩いたダブルボギーに集中した。
だがこのチェンバーズベイでは、ダブルボギーは誰もが喫するスコアだ。3日目のたった1つのダブルボギーが松山の優勝の可能性を消したわけではないだろうに……。そう思えば思うほど、彼の勝利への想いをどうしても尋ねずにはいられず、駐車場へ向かう彼の横に寄り添って歩いた。
「首位との差。正直、どう?」と単刀直入に問いかけた。
「うーん、どうなんでしょうねえ……」
ちょっぴりはぐらかしたので、さらに尋ねた。
「もしも10打差あったとして、首位が5つ、自分が5つ。それって、ありかしら?」
最近の米ツアーの3日目に松山自身がしばしば使う口調を、わざと真似しながら尋ねてみた。そう、このごろの彼は、たとえば首位と6打差なら「3つ(落として)で3つ(上げる)なら、(追い付くことは)全然ありなんで」という具合に、どんなときも追い上げ追い付く可能性を信じることが以前より格段に増えていた。
最終日を残して7打差、勝利の可能性は「無くはない」。
もちろん、米ツアー大会と全米オープンではコース設定も状況も異なるのだが、根本の考え方はきっと変わらないだろう。そう思って、わざと同じ調子で尋ねてみた。
「まあ、無くはないっすよね」
最終的に最終日前に首位とは7打差。勝利の可能性は「無くはない」。松山は、3日目の夕暮れに、確かにそう信じていた。