サッカーの尻尾BACK NUMBER
88分間走り続けたチチャリートの涙。
レアルのCL4強進出を決めた“代役”。
posted2015/04/23 11:35
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph by
AFLO
スーツ姿のアンチェロッティと、決勝点を決めレアル・マドリーを準決勝に導いたチチャリート(ハビエル・エルナンデス)は、試合後しばらくの間ピッチの上で抱き合っていた。
右ひざのアイシングが痛々しい。チチャリートは試合を通して走り回り、得点を決めたあとは、足を引きずりながらピッチを去った。
会場にメキシコ人の名がこだましている。
毎試合、ベルナベウでは誰かの名が叫ばれる。ロナウド、ベイル、ベンゼマ、ハメスにイスコ。チチャリートの名前がこれほど何度も連呼されるのは、今季初めてのことだ。
「チチャリートを祝福しなければ。なかなかプレーできず、難しい1年を過ごしていたから。彼は苦しみながらも戦い、必死で練習を続けていた。この得点は彼へのご褒美だ」
アンチェロッティは、ほっとした表情でこの日の主役をねぎらった。
互いの良さを消しあう「退屈な試合」を決めたのは。
CL準々決勝レアル・マドリーとアトレティコ・マドリーの第2戦。試合内容は0-0で終わった第1戦と同様、スペクタクルなものとはいえなかった。度重なる対戦で互いを知り尽くし、慎重に相手の良さを消し合う戦いが定着。地元メディアも「退屈な試合」と実況したくらいだ。
そんな試合を決めたのが、今季ほとんど出番がなく、日陰に置かれ続けたチチャリートだ。試合後のインタビューを受ける彼の目には涙が浮かんでいた。
「これは僕にとって一番重要なゴールだ。今季は苦しんだけど、プレーできないときにも我慢した。チームメイトと家族が僕のことを信じていてくれた。このゴールは彼らのためのものだ」
現レアル・マドリーのセンターフォワードにおいて、揺るぎない存在となっているのはベンゼマだ。
ロナウド、ベイルと抜群の連係をみせる彼は、指揮官の絶大な信頼をうけている。チチャリートがピッチに立つのは、ベンゼマの代役としてのわずかな時間だけだ。
しかしベンゼマの負傷により、チャンピオンズリーグ準々決勝という舞台でプレーするというチャンスが巡ってきた。