ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
遠くなった距離と、見えてきたもの。
石川遼とマスターズの「現在の関係」。
posted2015/04/23 10:50
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph by
AFLO
マスターズウィークが明けた月曜日。アメリカのゴルフ界はジョーダン・スピースの話題で溢れ返っていた。
グリーンジャケットをまとった母国のニューヒーローはまだ21歳。タイガー・ウッズに並ぶ記録的な大勝が、将来への期待を余計に膨らませていた。
興奮の余韻が残るオーガスタから南東へおよそ200km。その日、サウスカロライナの海岸沿いのコースに、石川遼はいた。
ヒルトンヘッドアイランドは、大西洋を静かに望むリゾート地。湿気を多く含んだ海風が頬を柔らかに撫でる。米ツアーのひとつ、RBCヘリテージの会場であるハーバータウンGLはコンパクトな作りで、広大なオーガスタナショナルGCとは趣が異なる。
ここが「世界一の舞台」と身震いするような、ピリピリとした高揚感はなかなか湧いてこない。その日はティオフの3日前ということもあり、のんびりと温かく、どこか牧歌的な雰囲気が漂っていた。
正午を過ぎた頃、午前中に9ホールの練習ラウンドを終えた石川はグリーンで黙々とボールを転がしていた。パターの練習を終えると、自らキャディバッグを担いでドライビングレンジへ向かう。第一線を退いたベテラン選手、下部ツアーから這い上がってきた若手とも挨拶をかわして、黙々とクラブを振った。スタッフや報道陣ら十数人の日本人を引き連れていた数年前までとは違う光景だ。
オーガスタへの距離は、以前よりずっと遠くなった。
午後2時半過ぎ。再びバッグを担いで車に乗り込むと、スタッフをひとり助手席に乗せ、自らハンドルを握ってコースを後にした。
ここからオーガスタは、車で行けば3時間ほど。だがそこは、以前よりもずっと遠くなった。これが石川の「いま」である。
5度目の出場を果たした2013年を最後に、今年はマスターズに出られなかった2度目の春だった。石川はマスターズ期間中、昨年と同じように拠点のフロリダ・ベイヒルの自宅でオープンウィークを過ごした。日中は練習に打ち込み、オーガスタの戦いはトレーニングを終えたあとの夕食時に、テレビで眺めた。