マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
甲子園優勝を“後悔”した高橋光成。
西武入り直前の言葉と「150km」。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2015/02/10 10:30
西武のシニアディレクターである渡辺久信と並んでも、この体格差。甲子園とは全く異なる高橋光成の投球を早くプロの現場で見たいものだ。
大谷翔平の角度から、菅野智之のストレート。
高橋のボールを受けた瞬間、伊良部だと思った。
いちばんすごいボールを投げた投手は誰?
そんな問いに、対戦した多くの人が今でも「この人」と挙げる剛球・伊良部秀輝(元・ロッテ)である。
奮投していた1990年前半、登板を終えて川崎球場のロッカーのトビラからひよっこり姿を現したスラパン一丁の伊良部投手の大きかったこと。小山のようなその姿が、前橋育英高のグラウンドの私の前にあった。前に立たれると、向こうが見えなかった。
高橋は、大谷翔平(日本ハム)の角度から、菅野智之(巨人)のストレートを投げ下ろしてきたのだ。
以前はモデル歩きのようにフラつきながら投げていたインステップが、きれいになくなっていた。軸足に乗せた体重を、すべてしっかり踏み込んだ左足に乗せ換えてくる。たまったものじゃない。乗せ換えた体重は、そのままそっくり投げつけてくる剛球に込められてくるのだ。
体、フォーム、ボール、すべてが変わっていた。
見られてナンボの投手稼業でも、肝心なのはタイミング。
西武でのキャンプは「B班」スタートと聞いた。
見識だと思う。
多くの記者とカメラと、大きな見出しに翻弄された高校時代をもう一度繰り返さないためにも、「高橋光成」を一度消してしまうことには、大賛成したい。
もちろん、騒がれてナンボのプロ野球。見られてナンボの投手稼業だ。しかし、肝心なのは「タイミング」であろう。
万人の目にさらされるに値する、大きな活字で騒がれるにふさわしい存在になること。まずは、それが彼の仕事だ。1年早すぎた快挙。そんなタイミングのいたずらに苦悩してきた彼だけに、今度はそのタイミングを逸しないでほしい。