濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
伝説の男ヒクソン・グレイシーが語る、
息子クロン、一族の誇り、現代MMA。
posted2015/01/23 10:30
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Susumu Nagao
伝説の格闘家は、ニューバランスを履いていた。
新イベント『REAL 1』(2014年12月23日、有明コロシアム)でMMAデビューを果たす次男・クロンのセコンドとしての来日だ。インタビュー場所として指定されたのは高級ホテルのスイートルーム。部屋の外には屈強なセキュリティが控える。
ただヒクソン自身は、いたってリラックスした様子だった。上品なジャケットを身につけているが、下半身はデニム。そして足元はランニングシューズの名作と言われるMR993のブラックである。ところどころ色あせているのが、長く愛用してきたことを感じさせる。
「今回は息子の試合で日本に来た。それにはいい面と悪い面がある。いい面は、自分の試合ではないということ。悪い面は、自分の試合よりも緊張することだよ」
55歳のヒクソンが何度も見せた“親心”。
400戦無敗と謳われ、高田延彦戦、船木誠勝戦といった大勝負をものにしてきたヒクソンは、現在55歳。愛息のデビュー直前とあって、インタビュー中は何度も“親心”が口をついた。
「クロンは柔術やグラップリングでは実績がある。しかしそれらとMMAはまったく違うスポーツだと言っていい。プロフェッショナルな闘いで、打撃があるからバイオレンス性も高くなる。クロンがスター選手になれるか? そうなってほしいが、すべてはこれからだよ。彼はまだデビュー前の選手なんだ。私は長い時間をかけ、たくさんの試合をして名前を知られるようになった。クロンだって同じだ。少しずつやっていくしかないんだよ」
あのヒクソンの息子がついにMMAデビューを果たす。そこにファンはドラマ性を見出すし、幻想を抱きたくなるのは当然のこと。だが父親としては、息子への過大な期待は避けたいようだ。
クロンが自分と同じ道を歩むことを、ヒクソンは強制していないという。
「もちろん柔術をやってほしかったが、やれとは言わなかったよ。このスポーツは大変な努力が必要だ。自分が好きでやるのでなければ、充分な努力はできないからね。だが、クロンはそうした。私がブラジルに戻り、離れて暮らしていた時期もあるが、その間も彼は成長していたんだ。やらなければいけないことを自分でできるようになっていた」