濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
伝説の男ヒクソン・グレイシーが語る、
息子クロン、一族の誇り、現代MMA。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2015/01/23 10:30
終始リラックスした様子でインタビューに応じていたヒクソンだったが、時折見せる鋭い眼光は、完全に現役選手のものだった。
グレイシー一族の柔術家として生きるということ。
ただ、“ヒクソンの息子”としてクロンにかかるプレッシャーを、肯定的に捉えてもいるようだ。グレイシー一族の柔術家として生きることを、彼はこんな言葉で表現している。
「プレッシャーは当然ある。“一族の価値と誇りを守らなければならない”というね。それは私自身も感じてきたことだ。プレッシャーがあるから、常に人一倍の努力が必要になるし、試合ではパーフェクトであることが求められる。それは誰にでもできることじゃない。
私はどんな試合でも、100%の状態で臨まなければいけなかった。“まあまあ”の状態で試合に出ることはできなかった。ただ、グレイシーだから誰よりも努力しなければいけなかったが、そのおかげで強くなることができたんだ。クロンも同じだと思う」
「柔術家にはMMAでも柔術を信じてほしい」
デビュー戦にあたり、ヒクソンがクロンにあえて打撃を習得させなかったという報道もあった。それも“グレイシー一族の誇り”に関わることなのだろうか。現在のMMAでは、柔術だけでなく打撃やレスリングも重視されているのだが……。
「いや、クロンは打撃の練習もレスリングの練習もしているよ。ただ、あくまでメインは柔術だということだ。近年は柔術が専門的に特化した競技になっていて、MMAとは違う形で発達している。だから柔術家も、MMAではボクシングとレスリングを武器に闘うことが多い。しかし私は、柔術家には柔術を信じてほしいと思う。少なくとも、クロンにはそうしてほしいね」
ブラジリアン柔術は世界的に広まり、かつてバーリ・トゥード=なんでもありと呼ばれた時間無制限の他流試合の場は“MMAというスポーツ”になった。ヒクソンが活躍した時代とは大きく変化している。だが、彼はそれを批判したり、嘆いたりすることはなかった。
「いまのMMAは階級制で、ラウンドごとに区切られた時間の中で闘うようになっている。フィジカルトレーニングをするようになって、みんなパワーもスタミナもある。いまはそういう時代だということだ。だからクロンも、その中で勝利を目指さなければいけないんだよ」